「サムシング・オーフル」というウェブサイト上に「Photoshopでパラノーマル(科学的には説明不可能)な画像を創り出そう」といった趣旨のスレッドが立った。すると2日後、「ビクター・サージ」を名乗るユーザーが、多くの子供たちが楽しそうに遊ぶ中に立つ、真っ黒い背広を着た長身の怪しげな人物のモノクロ写真を投稿。サージは文章で、この怪人が子供たちを次々と誘拐していく、というストーリーを綴った。「スレンダー・マン」と名付けられたこの異様なキャラは、たちまちSNS上で拡散していく。これが2009年6月のことである。
「スレンダー・マン」は細身で異常に背が高く、無表情というか、ほぼのっぺらぼうに近い。そんな不気味なキャラクターからか、スレンダー・マンは子供を狙うスートーカーであり、気に入った子供を拉致監禁し、彼らにトラウマを与えることに快感を覚える異常性格者だ…などという噂が流布。超常現象や陰謀論を扱うラジオ番組には、このスレンダー・マンの目撃談や情報が、聴取者からひっきりなしに寄せられるようになった。
ところがそんなある日、事件が起こる。スレンダー・マンに操られていたという少女による、殺人未遂だった。発生は2014年5月31日、場所は米ウィスコンシン州ウォキショー郡。12歳の少女2人が同級生の女の子を押さえつけ、こともあろうに、刃物で19回も刺すという、常軌を逸した行為だった。
刃物少女2人は通行人に取り押さえられたものの、警察の調べに対し、こう供述している。
「常にスレンダー・マンから監視され、心を読まれ、支配されていた。スレンダー・マンの手下になるために、人を殺そうと思った」
悲鳴を聞いて止めに入った男性はメディアの取材に対し、
「駆けつけた時、あたりは血の海で、少女たちも返り血を浴びていた」
と証言している。被害者の少女はどうにか一命をとりとめたものの、想像を絶する恐怖に、心の中に大きなトラウマを抱えることに。
その後もスレンダー・マンの目撃談や噂は広がるばかりで、もし目撃してしまえば、血の混じった咳や鼻血が出て止まらなくなる「スレンダー症」なるものを患うことに。
「それが至近距離だった場合には、記憶喪失や妄想症などの精神異常に陥ったり、最悪の場合、そのまま精神錯乱で死に至る、という説もあります」(超常現象ジャーナリスト)
SNS上で始まった怪人伝説は今もなお、全米を震え上がらせているのだ。
(ジョン・ドゥ)