ボクシング界を揺るがす前代未聞の不祥事が持ち上がったのは、2023年5月14日に北海道ガトーキングダム札幌で開催された平仲BSジム主催興行「MUGEN挑Vol.20」でのことだった。
第2試合、平仲BSジム所属のボビー・オロゴンの息子ジェイジェイ・オロゴンが4回戦で出場。1回終了間際に左ボディーでダウンを奪い、3分8秒でKO勝ちした。メインでは日本フェザー級1位リドワン・オイコラ(平仲BS)がナイジェリア人選手と8回戦で激突。1回1分55秒で見事KO勝利し、会場を大いに盛り上げた。
ところが、この2試合で破れたナイジェリア人2選手のボクシングが、あまりにも素人同然だったことで、不審に思った日本ボクシングコミッション(JBC)が、選手の過去の映像をチェック。すると、なんとこの2人が「出場するはずだった選手とは全くの別人」だったことが発覚した。ボクシング界の信用を失墜させる「替え玉事件」として、激震が走ることになったのである。
6月30日、JBCの萩原実コミッシュナー兼理事長、日本プロボクシング協会のセレス小林会長とともに記者会見した平仲BSジムの平仲信明会長は、全面的に落ち度を認めて謝罪。
「体重も落としてきていたし、試合前にミット打ちやシャドーボクシングを見たが、ボクサーだと思っていた。ただ、2人のパスポートを出してくれと言ったら、出せないと。ボビーを詰めて『なんで出せないんだ』と言ったら『ちょっと待ってくれ』と。ただ、確認しなかった自分がいちばん悪いので…。知らなかったとはいえ、全て自分の落ち度。どんな処分も受け入れる所存です」
JBCによれば、5人分の航空券代とファイトマネーは入金済みだったが、対戦予定の両選手はナイジェリアから出国しておらず、したがって入国していなかったことも分かったという。
替え玉の2人はいずれもプロライセンスを持たない、埼玉県越谷市在住の「素人ナイジェリア人」。興行をプロモートした平仲会長は、言わずと知れた元WBA世界スーパーライト級王者だが、ボビーに仲介を依頼。ボビーは別のナイジェリア人に、マッチメークを依頼したという。替え玉を仕組んだマッチメーカーはむろんのこと、それを気付かずに最終チェックを怠って素人をリングに上げた平仲会長とJBCの責任はあまりにも重い。
「ニセ選手にケガはなかったものの、コトによっては大変な事態になっていたかもしれません。この事件でボクシングに懐疑的な目が向けられるようになったのは、間違いありません」(スポーツ紙記者)
騒動後、公の場から消えていたボビーは2023年8月30日、後楽園ホールで行われたWBOアジアパシフィック・フェザー級王座決定戦に顔を見せ、メディアの直撃を受けるも、
「オレもまんまと騙された」
として「黒幕説」を完全否定。結局、JBCは試合前のパスポート確認作業を怠ったとして、担当管理職らを事実上、解職処分に。平仲会長に対しても2024年3月、プロモーターライセンスの無期限停止処分を下したと発表した。
だが、この替え玉騒動を仕組んだ「主犯」は、その後も逃げたままだ。
(山川敦司)