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新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「全日本では三沢、新日本では藤波新政権が誕生」

 最強神話が崩壊した新日本プロレス、ジャイアント馬場という大黒柱を失った全日本プロレス‥‥1999年春、老舗2団体は大きな問題を抱えながらビッグマッチを迎えた。

 4月10日、新日本の東京ドームの主役は、1.4東京ドームでストロング・スタイルのリングを邪道色に染めた大仁田厚。蝶野正洋を相手に、新日本初の電流爆破マッチが実現したのだ。ただし新日本内部、そして新日本ファンには大仁田に対する拒絶反応も多く、苦肉の策として〝第0試合〟という形になった。

 1.4の遺恨決着戦として橋本真也VS小川直也も期待されたが、新日本と小川が所属するUFOは絶縁、心の整理がついていない橋本が出場を固辞したために実現せず、メインに据えられたのは武藤敬司に元UFC王者ドン・フライが挑戦するIWGPヘビー級戦。

 大仁田と蝶野が同時に被爆して両者KOに終わった第0試合のインパクトに対抗するべく、格闘技色全開のフライにあえてムーンサルト・プレスを仕掛け、最後は腕ひしぎ十字固めで勝利して、純プロレスの面白さと格闘技としての強さを示した武藤は〝最後の砦〟と言っても過言ではなかった。

 新日本の東京ドームから1週間後の4月17日には、全日本が日本武道館でジャイアント馬場お別れ会「ありがとう」を開催。これはプロレスの興行ではなく馬場の本葬として営まれたもので、関係者とファンを合わせて2万8000人が参列。新日本などの他団体、かつて全日本に所属していたザ・グレート・カブキ、グレート小鹿、ターザン後藤、プロ野球界からは千葉茂、江川卓、巨人多摩川会のメンバーらが参列。祭壇代わりに設置されたリングは花で埋め尽くされた。

 5月2日には東京ドームでジャイアント馬場「引退」記念試合。生涯現役のまま急逝した馬場の国内5759試合目となる引退試合は馬場&ザ・デストロイヤーVSブルーノ・サンマルチノ&ジン・キニスキー。往年のライバル3人がリングに上がり、オーロラビジョンに馬場との名勝負が映し出された後、馬場元子夫人が16文シューズをリング中央に置いて引退の10カウント・ゴング。馬場の入場テーマ曲「王者の魂」が流れる中、超満員6万5000人の馬場コールが馬場に届けとばかりにドームの天井を突き抜けた。

 メインは三沢光晴VSベイダーの三冠ヘビー級選手権。1.22大阪で川田利明が三沢から王座を奪取するも、右腕尺骨骨折で王座返上。3.6日本武道館においてベイダーと田上明の間で新王者決定戦が行われ、第22代王者になったベイダーに三沢が挑戦したのだ。「もうこれからは馬場さんに甘えられなくなる」と、全日本を背負った三沢は渾身のランニング・エルボーバットで勝利。全日本の至宝を奪回して、馬場引退興行を最高の形で締めくくった。

 そして翌3日、全日本の新体制が発足。馬場の後継となる代表取締役社長に指名されたのは三沢。取締役副社長には百田光雄、川田利明、専務取締役には日本テレビ出身の大八木賢一が就任し、取締役には馬場元子夫人、馬場の姪で経理を担当していた馬場幸子、渕正信、田上明(選手会長も兼任)、小橋建太、百田義浩、監査役には営業部長として旗揚げから手腕を振るった大峡正男が名を連ねた。

 馬場の死から三沢社長誕生まで3カ月。空白期間が生まれたのは「5月2日の馬場さんの引退興行までは馬場さんの全日本!」という、大株主でオーナーでもある元子夫人の意向が大きかった。そして元子夫人は三沢に対して複雑な感情を抱いていた。三沢は前年夏の時点で馬場から現場の全権を委ねられていたが、元子夫人はそれによって馬場の元気が失われたと思い込んでいた節がある。これがのちに両者を相容れない関係にしてしまう。

 オーナーの意向が働いたのは新日本も同じだった。全日本で三沢政権が誕生した1カ月半後の6月24日、新日本では第28回定時株主総会が行われ、89年6月からアントニオ猪木の後任として2代目の代表取締役社長を務めてきた坂口征二が辞任して代表取締役会長になり、専務取締役の藤波辰爾が代表取締役社長に就任したのである。

 表向きには坂口が辞任を申し出て承認され、満場一致で藤波が新社長になったとされたが、51.5%の株を所有する筆頭株主の猪木の強権発動なのは明らかだった。猪木と坂口は前年6月から猪木が立ち上げた世界格闘技連盟UFOを巡って関係が悪化。坂口は1.4東京ドームの橋本VS小川戦から改めてUFOとの絶縁を宣言していたのである。

 藤波体制は猪木の傀儡政権と揶揄されたが、後年になって藤波は「内々に話があった時には悩んだよ。悩んだけど〝ここで話を蹴ったら、新日本が全然違う方向になってしまうのではないか?〟っていうのがあった。外部から知らない人間が来て社長に就任したら、どうなるかわからない。だから自分が受けるしかないと」と語っている。

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

写真・山内猛

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