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新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「離脱者14人!新日本と共闘も全日本に大激震」

 1990年春、メガネスーパーの参入はプロレス史に残る大事件だった。大企業が70億円もの資金をバックに86~88年のプロレス大賞MVPに輝いた天龍源一郎を全日本プロレスからヘッドハンティングして、SWSなる新団体を設立してしまったのである。

 思わぬ事態にレスラー、団体関係者、ファン、マスコミ‥‥誰もが浮足立った。「プロレスを金持ちのオモチャにさせるな」とバッシングを展開するマスコミがいれば「企業がバックアップしてくれるのは、業界を発展させるのに歓迎すべきこと」と支持するマスコミもいて大論争になった。

 4月26日、全日本のジャイアント馬場社長は天龍との3度目の会談の末に円満退社を認めたが、同夜11時過ぎに新日本プロレスの坂口征二社長をキャピトル東急ホテル(現ザ・キャピトルホテル東急)に呼び出して、情報交換をすると同時に企業防衛としてスクラムを組んで対処していくことを確認している。

 新日本は天龍不在となった全日本の「スーパー・パワー・シリーズ」第15戦の6.1札幌からクラッシャー・バンバン・ビガロを派遣。6.2美唄でスタン・ハンセン&ビガロのコンビが実現して三沢光晴&小橋健太(現・建太)に勝利。6.5千葉ではビガロVS小橋、6.8日本武道館ではビガロVS川田利明が実現して、いずれもビガロが快勝している。

 全日本の今後を占う日本武道館のメインイベントは、ジャンボ鶴田と三沢光晴の一騎打ち。5.14東京体育館でタイガーマスクから素顔になった三沢は〝打倒!鶴田〟を宣言。怪物的な強さを発揮する鶴田に、1万4800人の大観衆の三沢コールを受けて大逆転のフォール勝ちをモノにした三沢を川田、田上明、小橋が肩車する感動的なフィナーレは全日本に光明をもたらした。

 そして次は全日本が新日本に協力する番。6月シリーズ「バトルライン九州」にハンセンが参加し、6月12日、福岡国際センターでベイダーのIWGPヘビー級王座に挑戦した。当時のハンセンは三冠ヘビー級王者で、これに勝てば史上初の2大メジャー制覇を達成することになる。

 2.10東京ドームではハンセンのパンチでベイダーが右眼の周囲を4カ所骨折するという因縁もあり、試合は大荒れ。収拾がつかずに最後は22分11秒に両者反則という裁定が下された。

 最終戦の6.14大分では長州&ハンセンの夢のコンビも実現している。

 ジョージ高野、佐野直喜を引き抜かれた新日本だが4月に武藤敬司がWCWから凱旋帰国して武藤、蝶野正洋、橋本真也の闘魂三銃士がようやく揃い踏み。武藤と同時期に佐々木健介もプエルトリコ、カナダ、ドイツの武者修行から帰国して陣容は充実していた。

 この九州サーキットでは三銃士と健介による「バトルライン九州杯争奪トーナメント」が開催され、蝶野に勝った武藤と健介に勝った橋本が決勝戦に進んで橋本が優勝。新日本では着々と世代交代が進んでいた。

 三沢が鶴田に勝ったことで新時代の光が見えた全日本は、シリーズのオフ中にまたまた激震に見舞われた。6月15日に全日本は、事務所に選手を招集。引き抜き対策として新たに5年契約とそれに伴う契約金を提示したが、辞意を表明する選手が出たのである。

 退団したのは天龍の元付き人のサムソン冬木と北原辰巳(現・光騎)、当時の天龍の付き人の折原昌夫、87年10月にジャパン・プロレスから全日本に移籍した仲野信市、専属フリーの形で全日本に参戦していた鶴見五郎、練習生の山中鉄也。「来年3月の契約切れまでは」と考えていた選手もいたが、この5年契約が踏み絵になってしまった。

 こうした事態に当初は天龍を円満退社としていた馬場も「そっち(SWS)に行きたいと言っても、残れと説得するのが筋じゃないか」と、態度を硬化。天龍は「俺が声を掛けたのは、俺の付き人だったということで先輩にいじめられていた折原だけ」としたが、SWSの引き抜き行為はバッシングされた。

 選手以外にも日本プロレス時代から馬場の右腕的存在だった米沢良蔵取締役渉外部長、海野宏之(現レッドシューズ海野)レフェリー、営業部員の出戸裕一が退社。前記の選手の他にも2月から消息を絶っている高木功(現・嵐)、ヘルニアの悪化を理由に欠場を続けるジョージ高野の弟・高野俊二(現・拳磁)のSWS入りも確実視されていた。

 さらに7月7日に大宮スケートセンターで開幕した「サマー・アクション・シリーズ」で頸椎負傷から復帰した谷津嘉章が、2大会出場しただけで再び欠場して辞表を提出。シリーズ中に鶴田とのコンビで世界タッグ王者になったザ・グレート・カブキもシリーズ終了翌日に退団した。

 窮地に立たされた全日本だが、三沢、川田、小橋、菊地毅が超世代軍を結成。田上は鶴田のパートナーになって鶴田軍VS超世代軍の新たな図式が生まれた。

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

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