地方で行き慣れたギャンブル場というと、函館、弥彦、岸和田、小倉の競輪場になる。中でも食べる楽しみでは、函館が群を抜いている。ギャンブルとは関係がない日本全国を見渡しても、レベルの高さは1、2を争うのではないか。
これまで特に欧州にはよく出かけているが、食の街としてはイタリアのベネチアか函館か。海に浮かんでいるようなベネチアは全体が魚介類だらけだが、函館はこぢんまりしていながらも、世界に冠たる美食の港町だと思う。街のどこを歩いても、とにかく海鮮類の店の看板が目に入る。
その函館には競馬場と競輪場がある。もっぱら函館競輪に通ったが、今回は函館競馬である。競輪場と競馬場はわずか2キロほどしか離れていない。こういう土地柄は、川崎の例しかない。川崎競馬と川崎競輪は、堀之内の特殊浴場街を挟んだ中心街にある。函館の場合、近くに湯の川の温泉街が広がる。特殊浴場街と温泉街、どちらにしても遊ぶにはもってこいの土地柄だが、函館は広大な海原が目の前だ。旅打ちなら函館にかなうまい。
夏競馬の函館に出かけたのは7月6日、第1回9日目の開催だった。飛行機はJALを利用したが、1日3便だけ。朝、昼、晩である。日中開催の競馬には朝7時半の便を利用するしかない。今回は日帰りの強行スケジュールの予定だった。函館はちょいちょい出かけているので、競馬が終了したらサクッと飲んで引き上げるはず…だった。
曇り空の函館空港への到着は9時。ちょうど朝飯タイムである。5月に来た時はホテルの朝食をパスして朝市に出かけ、イカそうめんを食べたが、朝市ばかりが函館ではない。最近はむしろ、街中にある自由市場を勧める人が多い。自由市場では、オーダーしたものが出てくる朝市と違い、市場内を回って好きな魚を目の前で切ってもらい、お好みの魚介定食にして食べることができる。今回はこれを堪能しよう。
空港から函館駅にはバスで20~30分。駅前でレンタカーを借り、自由市場へと向かった。そろそろ観光客や地元客で混雑し始めていたが、まだ余裕だ。
市場はコンパクトな作りになっている。先に1周して、何が並んでいるかをざっと確認する。奥の食事用テーブルの前には、水槽で泳いでいるイカを釣って、その場で活造りにしてくれる「釣りイカ」サービスがある。料金は1000円。これをまずオーダーする。
それから場内をひと回りし、赤身と中トロ700円、筋子4切れ700円、かに汁とご飯のセット500円、しめて2900円の自前の魚介定食のできあがり! 函館にやってきて最初がこれとは、贅沢な気分。一気に完食した。
競馬が始まるまではまだ時間があるので、久々に函館山を登ってみることにした。展望台から競馬場が見えるかもしれない。
街中からつづら折りの山道を走らせること、およそ15分。ごく近いのだ。海と山がこんなに間近なのも、函館という街の特徴だろう。この日は夕方まで曇っており、頂上付近には靄がかかって一面真っ白だった。何も見えない。
しかし、函館山に登るのは別の目的もある。展望台には全国を測量して回った伊能忠敬の碑があり、これを見て旅打ちの意志を新たにするのだ。
伊能忠敬が全国の測量を始めた時は55歳だった。自ら歩いて、約20年かけて日本の測量地図を完成させた。飛行機も新幹線も車も何でもある今では考えられない難行苦行だった。しかし、やればできるのだ。
6年前から旅打ちを始めて、函館競馬は全国97場のギャンブル場制覇に向けての94場目になる。ギャンブル97場なんて日本地図作成に比べたら、大学生と赤子くらい…いや、もっとか。鼻クソみたいなものだ。その碑を見ると、元気にギャンブル場を回ろうと奮い立たされる。
(峯田淳/コラムニスト)