賃貸か、持ち家か?基本は価格の判断だが、生活条件の変化も考慮しよう
本欄で以前に書いた、不動産購入に関する記事への反響が大きかったと編集部からお聞きした。家賃と不動産価格の関係を投資と同様に判断せよ、不動産を「買う」ことは必ずしも得ではない、という内容だった。少し補足しよう。
まず、立地条件と家賃の関係だ。例えば、通勤時間が片道30分の場所と1時間の場所とでは、どの程度の家賃差があっていいか。往復では1時間違う。
仮に、あなたの年収をキリのよい1000万円としよう。年間に250日、1日8時間働くなら、時給は5000円と計算できる。ひと月に20日出勤するなら、片道で30分よけいに掛かる通勤時間はひと月で20時間多いということになる。この時間の値段を時給で計算するとひと月に10万円だ。つまり、30分通勤時間を短縮するために、毎月10万円よけいに払ってもいいと計算できる。筆者が様々な場所に住みながら働いてみた実感では(就職してから東京都内だけで12回引っ越した)、通勤時間が延びると通勤時の移動の疲れと不快感が加わり、その追加損失は時給分以上だったと思う。通勤時間が延びると仕事のパフォーマンスが落ちる。
不動産問題に限らず、自分の時間をお金に換算すると生活を改善するヒントになることがある。筆者は仕事や勉強の時間が貴重な若い人にも、時給が高く時間が貴重な高齢者にも、「職住接近」を勧めることが多い。職場から遠い場所に家を買うのはお勧めできない。
また、自分の生活条件の変化の可能性を考慮に入れるべきだ。例えば、転職や転勤で通勤先が変わる場合や、家族構成が変わる場合、住居の最適な場所と間取りが変わる可能性があることを考えておきたい。
サラリーマンが家を買ったとたんに転勤になるのは、よくあることだ。持ち家を売ったり転貸したりするには相手を見つける必要があり、それは家を購入する時に不動産屋が言うほど簡単ではないことが多い。
子供が増えたり、独立したりして、適切な間取りが変わることもよくある。安定した商売を自分で営んでいたり、転勤のない地方公務員でもやっていたりするなら別だが、買ってしまった不動産が後の重荷になるのはよくあることだ。
家を買うべきか、賃貸住まいにすべきかの区別は、大原則として、投資として評価した場合の不動産価格が高いか安いかで決めるべきなのだが、加えて、自分の人生の「変化の可能性」も考慮に入れておきたい。
それでも、アベノミクスと2020年の東京五輪を背景にした不動産の(ミニ)ブームに乗りたい人はどうすればいいか。お勧めはREIT(不動産投資信託)だ。REITは、買い手を見つけなくても市場で売れるし、売買の手数料や税金も安いし、投資物件が分散されている。一時的なブームに乗るにはよい商品だ。
◆プロフィール 山崎元(やまざき・はじめ) 経済評論家。58年、北海道生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事に入社し、野村投信、住友信託、メリルリンチ証券など12回の転職を経て、現在は楽天証券経済研究所客員研究員。獨協大学経済学部特任教授。「全面改訂 超簡単 お金の運用術」(朝日新書)など著書多数。