名古屋場所開催中の相撲界に、公傷制度復活を求める声が噴出している。公傷制度とはかつて相撲界に存在していたもので、負傷休場しても番付が落ちない横綱以外の力士に適応される、救済措置のことだ。
稽古中に発生したものではなく、本場所の取組で負ったケガによる休場は、通常の休場にはしないという制度だった。1971年の理事会で導入を決定し、翌年の初場所から施行されたが、拡大解釈が目立つようになった。
平成時代になると「全治2カ月以上の診断書があれば公傷となり、番付が落ちない」と言われるようになり、悪用されるケースがあとを絶たなかった。そのため、2003年の秋場所後の理事会で、廃止が決定。翌年の初場所から適用されて、現在に至っている。
ただ、ケガが治りきらない力士が強行出場に踏み切った結果、悪化させて長期休場を余儀なくされるケースが目立ち、再三にわたって復活を求める声が上がっていた。
今回、元大関朝乃山の大ケガ休場で、その声がさらに大きくなっているという。長年、大相撲の取材に携わってきたベテラン記者は、次のように話す。
「朝乃山は4日目の取組で左膝を負傷して、左膝前十字靱帯断裂、左膝内側側副靭帯損傷、左大腿骨骨挫傷の重傷と診断されました。手術を受ける予定で、半年以上の離脱は確実です。そうなれば、番付は十枚目(十両)、幕下を通り越して三段目まで落ちる。気持ちが切れかねない、ということに…」
朝乃山はコロナ禍の不祥事で出場停止処分を受けて、三段目に陥落。そこから番付を徐々に戻してきたが、二度目の出直しとなれば、さすがに厳しいかもしれない。
さらに今年の春場所で110年ぶりの新入幕優勝を果たした尊富士も、その場所の14日目に右膝を負傷していた。翌場所は全休し、わずか1場所で幕内から東十両2枚目に陥落。今場所も出場予定はなく、幕下まで番付を落とす可能性がある。相撲関係者の中には、こんな話をする者がいる。
「最近では力士の大型化がさらに進んでおり、ケガのリスクが以前より高まっている。せっかく活躍してもケガで番付を大きく落とすような力士が増えてきては、相撲界にいい影響を与えないのでは。ケガを恐れて激しい相撲を取らなくなれば、相撲人気に翳りが生じかねないからね」
確かに相撲界は実力の世界だが、ケガを恐れず相撲を取れる環境作りが必要になってくるのではないか。