6月に発表した岸田内閣3度目の「骨太の方針」は大ウソだった。中央最低賃金審議会(厚労省の諮問機関)の小委員会は7月24日、2日間かけたすったもんだの末、2024年度の最低賃金を全国平均で時給1054円に引き上げる目安をまとめた。現在の平均額1004円から50円(5%)の引き上げで、現行方式となってから過去最高の引き上げ率となる。だが、これにヌカ喜びしてはいけない。
実は今春に引き上げられたばかりの国民健康保険料と社会保険料の値上げが、次年度に見込まれているからだ。次年度の社会保険料の引上げ率は5%、社会保険に加入するサラリーマンでは収入の30.2%を占める「大増税」が見込まれる、との試算が出ている。
つまり賃金が5%引き上げられたところで、その分をまるまる社会保険料に持っていかれてしまう。さらに賃上げ分の所得税を差し引かれれば、賃上げどころか「実質的な賃下げ」となり、原油高と円安、物価高騰に逆行する「社会保険料の大増税」が我々を待ち受けているのだ。
特に大打撃を受けるのは、これまで扶養控除の範囲で働いてきた主婦と、年額81万円しか支給されない国民年金だけではとても生活できず、生活費を工面するために老体に鞭打って炎天下にパートやアルバイトしている60代、70代だ。今年10月からはパート、アルバイトの社会保険の適用が拡大されるため「働けば働くほど損をする」不条理が待ち受けている。
賃上げと社会保険料の引き上げにより、中小企業の倒産は増えるだろう。帝国データバンクは今年4月に「社会保険料などが払えない企業倒産」が過去最高になったと発表した。経営悪化から消費税や固定資産税などの各種「税金(公租・租税)」、厚生年金保険や健康保険などの「社会保険料(公課)」について滞納状態が続くと、企業の資産等を差し押さえられる。その結果、経営が行き詰まった企業の倒産(公租公課滞納倒産)が2023年の97件から1.4倍の138件に急増したのだ。前述の通り、今や老人医療の赤字分を補填させられている我々の社会保険料負担は、サラリーマンの収入の30%を超え、本人負担が15%、企業負担が15%を占めている。
自慢することではないが、暇つぶしで病院に行っては湿布薬をタダでもらいにくる老人や生活保護受給者の医療代金、開業医の悪徳商売に我々の保険料が奪われていく現行の健康保険、社会保険制度に納得がいかない筆者は健康保険料を滞納していたのだが、昨年とうとう資産を差し押さえられた。
岸田増税クソメガネの自公政権が実に悪質なのは、企業や個人事業者の「生活が破綻」「倒産」するまで、滞納分以上の資産を半年から1年にわたって返還しない「嫌がらせ」をしてくることにある。筆者も凍結された資産を整理し、滞納分を支払ったが、残りの凍結資産は4カ月経った今も返納されていない。
滞納額以上の全資産を凍結されるため「公租公課滞納倒産」した場合、従業員の賃金未払いや借金の返済に自宅の売却や家族名義(経営者本人の生命保険料も凍結されるため)の生命保険料を充当せねばならない。「公租公課滞納倒産」138件の中には自死や一家離散、ないし心中にまで追い込まれた悲劇が含まれていることだろう。
国民の生きがい、仕事、そして命を奪ってまで自公政権が取り立てた健康保険料はどこにいくのか。我々が奪われた健康保険料は悪徳医者から日本医師会、日本医師会から閣僚への政治献金、自民党のパーティー券代金へと「迂回融資」される。
増税分の賃金引き上げもしなかったウソつき岸田総理は、2021年に日本医師会から1400万円の献金を受けた。わずか50円の賃金引き上げを渋った諮問会議のボスたる武見敬三厚労相も同会から1100万円、自見英子内閣特命担当相は計2億円もの政治献金を受け取っている。
その他にも2021年だけで日本医師会の自民党への政治献金は、自民党の政治資金団体「国民政治協会」に約2億円、国会議員や候補者に約2億7000万円。パーティー会費は約5000万円と、総額5億円を超える。
派閥にもよるが、我々の健康保険料は自民党の現職国会議員1人あたり、数十万円から数百万円を懐に収めていると言っていい。今回ようやく引き上げられた時給50円分のうち20円は、日本医師会と自民党議員の懐に消える。
きっと猛暑のせいなのだろう。自民党議員のポスターを見ても、善良な庶民のカネと命を奪った凶悪な「指名手配犯」にしか見えなくなってきた。
(那須優子/医療ジャーナリスト)