7月31日早朝にイスラエル戦を迎えるパリ五輪・サッカー男子日本代表は、すでに2連勝でグループステージ突破を決めている。
立役者の一人として大きく貢献したのは、初戦のパラグアイ戦5-0、2戦目のマリ戦1-0と、再三のピンチを防ぎ見事にシャットアウトした守護神の小久保玲央ブライアンだ。
出場権をかけたアジア最終予選から神がかり的なセーブを連発したことで、すでに「A代表」待望論が浮上しているが、実はここまで順風ではなかった。所属チームでは、はっきり言えば鳴かず飛ばずの成績だったからだ。
ナイジェリア人の父親と日本人の母親のもとに生まれた小久保は、2019年に柏レイソルからポルトガルの名門・ベンフィカに引き抜かれると、2023/24シーズンまで在籍。
しかし、4年間でトップチームに出場する機会はゼロ。Bチームでもレギュラーの座を奪うことができないどころか、ベンチ入りすら出来ない日々が続いた。欧州サッカーに詳しいサッカーライターはこう話す。
「ベンフィカがGKの宝庫と言われるほど、タレント揃いだったことは不幸でした。3歳下のアンドレ・ゴメスは将来の世界最高のGKと呼ばれる逸材で、チームは小久保より優先して育成に力を入れているのは明らかでしたね。23シーズンからベンフィカに加入した小久保と同年代でウクライナ代表のアナトリー・トルビンは、先の『ユーロ2024』に出場した実力者であり、すでにトップチームのゴールマウスを守っています。チームはトルビンのパリ五輪の出場を認めず、逆に小久保の出場は容認していただけに、それだけでチーム内の序列がわかるでしょう」
さらに、ポルトガル人で1歳下のGKサムエル・ソアレスもトップチームに帯同していた。強烈なライバルたちとのハイレベルなポジション争いに敗れ、小久保の序列は屈辱の「4番手」扱いだった。
GKは特に出場経験が大きく成長を左右するポジションでもあるが、ベンフィカで経験値を積めなかった小久保がなぜここまでの活躍を見せることができたのか。前出のサッカーライターはこう話す。
「試合に出られない間に決して腐ることなく、ベンフィカのGKコーチに志願して、個別のメニューを作ってもらい誰よりも練習量を増やしました。海外選手特有の中長距離からの正確なシュートへの反応を磨き、今回のパリ五輪では意表をついたミドルシュートを見事に弾いています。さらに足元の技術力のアップに取り組んだことで、フィールドプレーヤーと遜色ないほどボールを扱えます。小久保のキックが攻撃の起点になる場面が目立つのはそれが理由です」
自暴自棄にならず黙々と努力をした結果が、一連の〝神セーブ〟というわけだ。
また、小久保には寝坊癖などまだまだ弱点はある一方、私生活では香水選びのセンスのよさがチームメイトから評価される〝おしゃれ〟な一面がある。
金メダル獲得のカギを握る若き守護神は、今シーズンからシントトロイデン(ベルギー)に移籍する。ここでレギュラーの座をつかみ、一気にA代表まで駆け上がれるのか。パリ五輪を機に「救世主」がスター街道に乗ることを期待したい。
(風吹啓太)