運も実力のうち。
パリ五輪サッカーで56年ぶりのメダル獲得を目指すU-23日本代表が初戦から2連勝して、早々と決勝トーナメント進出を決めた。
開幕前の予想では、初戦の南米1位通過パラグアイ、今年3月の親善試合で1-3と逆転負けを喫している2戦目のマリが、日本にとって大きな壁になると考えられていた。ところがフタを開けてみれば、パラグアイに5-0、マリにも1-0と連勝し、3戦目のイスラエル戦を待たずに、決勝トーナメント進出を決めてしまった。
しかし試合を分析すると、「日本は強い」とは言いきれない。
初戦のパラグアイ戦で勝負を大きく分けたのは前半25分、パラグアイの選手がラフプレーによる退場処分で10人になったことにある。それでも後半の立ち上がりは、パラグアイに押し込まれた。2点目が入ってパラグアイの集中が切れたこともあり、5-0という結果になった。
マリ戦は前半こそ互角以上の戦いを見せたものの、後半は押し込まれ、ファインセーブを連発したGK小久保玲央ブライアンの活躍がなければ、どうなっていたかわからない。後半26分にはセットプレーからヘディングシュートを打たれたが、ポストに当たって外れた。
後半37分にカウンターから山本理仁が決めて先制するが、アディショナルタイムにPKを与える。そのPKのシュートが左に外れ、なんとか逃げ切った。
相手に退場者が出る。シュートがポストに当たり外れる。PKが外れる。日本にツキがあったのは事実だ。ただ、その運も決して偶然ではない。
パラグアイ戦での相手のラフプレーやボール際の激しさは分析済みで、その局面で気後れしたらパラグアイにペースを握られてしまう。球際での勝負、ボールの奪い合いに負けなかったからこそ、あのレッドカードが出たといえる。
マリ戦のPKは、小久保は完全にコースを呼んで右に飛んでいた。その指示がベンチから出ていたようだ。つまり戦う前の分析、スカウティングの勝利であり、それが日本に運をもたらしたといえるのではないか。
それでも前述したように、日本は強いというイメージはない。その理由は、決定力不足にある。相手が10人になったパラグアイ戦は別として、マリ戦でもチャンスは作るが、決めきれない。それはアジア最終予選でも気になっていたことだ。
そのかわり、守備の意識は高い。ボールを奪われた瞬間に、攻撃から守備に切り替える早さ。集中を切らさず、最後まで全員が体を張ってチームのために走る。だから抜かれる局面はあっても、最後の最後で体を投げ出すことができる。
マリ戦のPK献上の瞬間は、2人がスライディングにいって、2人がシュートコースに体を入れている。チームのためなら自分が犠牲になる。そんな泥臭いサッカーができる。
決勝トーナメントの相手は、グループCのスペイン、エジプト、ドミニカ共和国のいずれかの国だ。どこと対戦しても簡単ではない。
ただ、どこと対戦しようとも、やることは同じ。体を張って走り回る、泥臭いサッカーをやればいい。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップ・アジア予選、アジアカップなど、数多くの大会を取材してきた。