このキャリアが首をかしげるのは、県警本部長の相談相手が警察庁官房長で、特別監察に入った監察チームがトップの首席監察官・片倉秀樹をはじめ、人事課の課長補佐も監察官も官房長の指揮下にあるからだ。
言ってしまえば、「わかった。やれ」とゴーサインを出した後で、「一体何をしているんだ」と叱りつけるようなもの。この対応を疑問視しているわけである。別の警察幹部は、さらに踏み込んで、こう話す。
「官房長といえば、警察庁ナンバー3の立場にある最高幹部にして、長官の最側近。当然ながら、隠蔽捜査は長官も承諾済みだ」
露木康浩長官も、監察チームを統べる太刀川浩一官房長も、この一大事の当事者だというのだ。
「だからこそ、動きが早かった。事が公になるや野川本部長に長官訓戒を出したのは、そのためだが、問題が内閣や国家公安委員長を巻き込んだ話になると、それだけで済ますわけにはいかない。で、今度は完全なるトカゲの尻尾切りに走った。それが今回の特別監察。警察庁は関係ないというアリバイ作りだ」
官房長ではなく、長官みずからが「わかった。やれ」と言った後で、「何をしているんだ」と叱りつけるだけでなく、前言をなかったことにしようとしているわけだ。こうなると、警察はトップからして腐りきっているというほかない。
警察官の服務規程には「公共の利益のために勤務し、かつ、その職務の遂行に当たっては、不偏不党かつ公平中正を旨とし、全力を挙げてこれに専念しなければならない」「権限を濫用してはならない」云々と明記されている。最高幹部らが率先して守るべきなのに、こぞって身内の不祥事の隠蔽に走るのはなぜか。
「警察の伝統。お家芸だ」
と明かすキャリアOBが続ける。
「どこの官庁もそうだが、捜査権のある検察や警察は、特に身内の不祥事に敏感で、すべてなかったことにするのが基本。だからこそ、つい先頃、検察庁が元検事正を逮捕した件は不可解なのだが、それはさておき、警察の場合、警察幹部を養成する警察大学校の講義が、そのことを象徴している。講義で真っ先に触れるのが、身内の不祥事対応について。『逮捕はしない、公表はしない、そっと辞めさせる』と教示される。つまり、不祥事隠蔽の講義なのだが、これは教材には載せず、あくまでも講師の口頭によるものだが、徹底的に叩き込まれるだけに身にしみる」
こうした講義を受け、警察大学校を卒業した者たちが幹部の階段を昇っていき、やがて警察中枢を構成していくことになる。
キャリアOBによれば、ある官房長などは県警本部長からの電話に対し、「なかったことにするんだよ! 当たり前だろう」と怒鳴り上げたことがあったという。
こんな組織に捜査権という強大な公権力を委ねておいていいものなのか。
時任兼作(ジャーナリスト)