─五輪連覇を目指すのは、阿部兄妹だけではない。男子81キロ級・永瀬貴規(30)もその1人だ。
内柴 男子81キロ級はかつて「日本人は勝てない」と言われてきた鬼門の階級。軽量級にいるようなスピードを持ち味とするタイプもいれば、重量級を彷彿させるパワフルな選手もいて、実力者ぞろいの階級で、非常にレベルの高い、熾烈な戦いが予想されます。
そうした中、永瀬選手は、屈強な外国人選手と組み合っても負けない強さを持つ一方、相手選手が仕掛けてくる技に対しては柔軟に対応し、自分の間合いに持ち込んでいく巧さも持ち合わせています。
相手をしっかりつかまえて、引っ張って押し込んだり、相手をコントロールしながら、的確に技を仕掛けることができるのが彼の大きな強みです。右膝前十字靱帯断裂という大ケガを乗り越え、東京五輪で金メダルを獲得するなど、メンタル的にも強い選手なので、群雄割拠の階級でも必ず頂点に立ってくれると思います。
─今回が五輪初出場でも、金メダル獲得のチャンスが十分にある選手たちもそろっているようで。
内柴 男子60キロ級・永山竜樹選手(28)は昨年のグランドスラム東京大会で、東京五輪金メダリストの髙藤直寿選手に勝利するなどして、パリ五輪の出場権を獲得した。小さな体で大きな選手に立ち向かっていく、攻撃的な柔道スタイルが特徴です。勢いにも乗っているので、活躍を楽しみにしています。
男子73キロ級・橋本壮市選手(32)は、高校3年時にインターハイ団体・個人で2冠を達成するなど、将来を嘱望される選手の1人でした。しかし16年のリオ、21年の東京五輪と続けて落選し、ようやく今回、史上最年長として五輪柔道男子日本代表の座を手にした苦労人です。彼の得意技でもある「橋本スペシャル」と称される変則の袖釣り込みは、初めて対戦する外国人選手には大きな脅威になると思います。
男子100キロ超級・斉藤立選手(22)は斉藤仁先生の息子さんで、まだ技術的には粗削りで未熟なところもありますが、この階級の金メダル最有力候補のフランス代表、テディ・リネールに、若さと勢いで怯むことなく積極果敢に攻めの姿勢で挑んでほしいものです。
─五輪連覇の偉業を成し遂げた内柴氏に、改めて金メダル獲得の極意を聞きたい。
内柴 平常心で自分自身の柔道を貫き通すことが大事です。「柔よく剛を制す」を理念とする日本の柔道は、両腕で相手の道着を持ち、十分な間合いを取りながら技を仕掛けていくのが基本的なスタイル。一方、外国の〝JUDO〟では、相撲のように密着してきたり、頭から突っ込んできて一気に引っくり返すという、日本の指導者であれば絶対に教えないであろう、変則技や奇襲技をたびたび仕掛けてきます。日本の柔道とは間合いや技のタイミング、リズムが異なるので、そうした相手のスタイルに飲み込まれるのではなく、まずはしっかり組んで、ある程度、相手とは距離を取りながら、相手の意識をそらしつつ、その隙を狙って技を仕掛けたい。まずは相手の間合いを殺して、好きにさせないこと。代表選手たちには、自分自身の柔道をやり抜いてほしいです。
※本記事は2024年7月30日発売「週刊アサヒ芸能2024年8月8日号」に掲載された内容です