連日、熱戦が繰り広げられているパリ夏季五輪。その開幕直前に発生したTGV(高速鉄道)への破壊工作は、フランス政府に大きな衝撃を与えた。
TGVは「フランスの新幹線」と称される高速鉄道網で、首都パリから放射状に延びる3路線で、放火によるケーブルの損壊などが確認された。犯行現場はいずれもパリから遠く離れており、警備が手薄な郊外が標的にされた格好だ。
フランス政府は「国内極左勢力による犯行の可能性が高い」としていたが、フランス国鉄の敷地内で極左活動家の男が逮捕された。目下、容疑者のプロフィールなどの特定を急いでいるが、実は当局が監視の目を光らせているのは、国内の極左勢力や環境過激派だけではなかった。全国紙外信部記者が明かす。
「フランス政府が秘かに警戒しているのは、ロシア諜報機関によるテロです。事実、警戒網は五輪開幕前から張りめぐらされており、7月21日にはパリ検察当局が40歳代の料理人の男を逮捕しています。逮捕の理由は『フランス国内での敵対行為を誘発させる目的で、外国勢力と諜報活動を行っていた』というものでした」
その後、料理人の男の自宅からは、ロシアの諜報機関として知られるFSB(連邦保安局)との関係を示す文書のほか、フランス国内で世論対立を煽り立てるための準備をしていた証拠などが発見されたというのだ。外信部記者が続ける。
「さらに、当局がパリ五輪へのジャーナリスト申請やボランティア申請を詳しく審査したところ、およそ100件がロシアの国家機関職員とみられるロシア人と、ロシアの同盟国であるベラルーシ人などによる申請だったことが判明し、申請が却下されています」
ロシア人らの申請が却下されていなければ、ジャーナリストやボランティアを装った工作員によるテロが炸裂していたかもしれないのだ。
実はTGVへの破壊工作の3日後にも、フランス国内にある通信会社の配電盤の光ファイバーケーブルが切断されるという事件が起きている。
五輪開幕中はもとより、閉幕後も厳重警戒が求められるのだ。
(石森巌)