名越 著書の「日本再発見」は、日本人が気づかない日本の魅力を、外交官だからこその鋭い指摘で語り尽くされていて、非常に面白かったです。
大使 ありがとうございます。私は日本育ちで日本語が話せることから、以前に自分の言葉でジョージアを紹介した「大使が語るジョージア 観光・歴史・文化・グルメ」(星海社新書)を出版しました。それが評判だったので、今度は私の第2の故郷である日本について書いてみました。
名越 少年期の駄菓子屋での思い出や、大学時代の寮生活での日々も興味深く読みました。
大使 私は多くの駐日大使の中で最年少です。恐らく小学校から社会人までを日本で経験したのは、自分一人だと思います。他の大使が知らない日本社会での経験も書きました。
名越 お父様が広島の大学に来られたので、一緒に来日されたんですね。
大使 はい。ジョージアで生まれてから小学1年生で広島に来て、その後に茨城に引っ越しました。
名越 茨城の街での史跡巡りが紹介されていました。日本に来られて何年が経ちますか。
大使 20年ほどになるので、ジョージアでの暮らしより長くなりました。
名越 大学卒業後は「キッコーマン」で3年間働いていて、職場での歓送迎会がとても好きだったそうですね。
大使 すごい得意分野でした(笑)。歓送迎会で頑張って一発芸をやると、すごく喜んでもらえました。歓送迎会は重要なイベントだと思います。
名越 その後にジョージアで外務省に就職されましたが、大使の歓送迎会はなかったそうですね。
大使 そうなんです。大変がっかりしました。日本ならではの文化だったことを改めて感じましたね。
名越 「働き方改革」の影響だと思いますが、最近では歓送迎会を減らしている企業も多いようです。
大使 とても素晴らしい文化なので、なくさないでほしいですね。
名越 和食の魅力についても書かれています。料理そのものは同じでも、食感や味わいを変えて楽しむという指摘は目からウロコでした。
大使 これは私の持論ですけれども、結構、的を射ていると思っています。例えば焼き鳥は、肉に串を刺して焼いたものですが、串ごとにももやささ身など、肉の部位を変えることで食感も香味も違いますよね。天ぷらも焼肉も同じです。寿司も間にガリを食べることによって気持ちをリセットして、次の寿司に集中できます。調理法は同じでも異なる味わいが楽しめる。これは日本食の醍醐味だと思います。
名越 ジョージアを含めて外国ではありえないですね。
大使 肉の後には野菜など、見た目も味付けもまったく違う料理が出てきます。その点でも日本料理は面白いです。
名越 ラーメンもお好きだそうで、色々なお店に行かれていますね。先日も「ラーメン二郎」を“表敬訪問”された様子がSNSにアップされていました。
大使 私より熱心なラーメン好きはたくさんいますし、今度はラーメンなど、食べ歩きの本を出しましょうか(笑)。
ゲスト:ティムラズ・レジャバ 駐日ジョージア大使。ジョージア出身。92年に来日し、その後ジョージア、日本、アメリカ、カナダで教育を受ける。11年9月に早稲田大学国際教養学部を卒業。12年4月キッコーマン(株)に入社。18年、ジョージア外務省に入省。19年に在日ジョージア大使館臨時代理大使に就任し、21年より特命全権大使としてジョージアの魅力を日本で発信している。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書)、「独裁者プーチン」(文春新書)など。