名越 茶道も嗜まれていますが、その魅力について教えてください。
大使 お茶を飲むだけでなく、茶室や庭の美しさ、掛け軸などで季節の魅力を感じたり、出された器でも、必ず亭主が器について話してくれます。茶室でご一緒した方々との出会いも大切に感じます。茶道は日本のサービス精神や日本のおもてなしの根底にあるものだと思います。実はジョージアにも茶道のような「ワイン道」があります。「スプラ」と呼ばれているのですが、茶室に亭主がいるように、スプラには「タマダ」という司会役がいます。ワインを飲みながら、合唱や詩の朗読や食事も出されます。
名越 まさにおもてなしですね。ジョージアは観光にも力を入れています。お客さんをとても大事にしていて、知らない人でも丁寧に歓待してくれます。
大使 日本と同じで「おもてなし」の気持ちが強い国なんです。
名越 ロシアのモスクワに住んでいた頃、ジョージアに行くとホッとしました。
大使 ありがとうございます。お客さんがリラックスしてもらえるようにおもてなしをする国ですから、それを感じてもらえたのはうれしいです。
名越 本でも触れていますが、昨年、長らく日本でタブー視されてきた「ジャニーズ」「宝塚」「吉本興業」などの問題が露呈しました。この動きはどう感じますか。
大使 それまで日が当たらなかった場所に目が向けられて、よかったと思います。
名越 今の日本は転換期にきているのでしょうか。
大使 日本のみならず、世界的に価値観が変わろうとしているタイミングではないでしょうか。戦争やコロナ禍が重なった中、日本もそれらに順応して新しい時代を乗り切るためには、どう舵を取ればいいのか、を考える時だと思いますね。
名越 今、日本人は元気がありません。ぜひ、エールをお願いします。
大使 日本にはすごく立派な独自の文化や思想があります。その芯の部分を一層、強くしながら、変えられる部分は変えていく。そのバランスを取るために「日本再発見」ではないですけど、自分自身をよく知ることが今後の社会のあり方につながっていくのだと思います。
名越 ありがとうございます。20年ぶりにジョージアを訪れてみたくなりました。
大使 ぜひ、お越しください。
ゲスト:ティムラズ・レジャバ 駐日ジョージア大使。ジョージア出身。92年に来日し、その後ジョージア、日本、アメリカ、カナダで教育を受ける。11年9月に早稲田大学国際教養学部を卒業。12年4月キッコーマン(株)に入社。18年、ジョージア外務省に入省。19年に在日ジョージア大使館臨時代理大使に就任し、21年より特命全権大使としてジョージアの魅力を日本で発信している。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書)、「独裁者プーチン」(文春新書)など。