一部で品薄となっている「コメ」をめぐり、大阪府の吉村洋文知事と坂本哲志農水相の「場外乱闘」が勃発している。
発端は吉村知事が8月26日、政府に対し備蓄米を開放するように要請したことにある。これに対し、坂本氏は8月27日の閣議後の記者会見で、スーパーなどでコメが品薄になっている背景に言及。地震や台風に備えた買いだめ、お盆休みの影響、新米と古米が入れ替わる時期など複数の要因が重なっていることを挙げ、備蓄米の放出に慎重かつ消費者に冷静な対応を呼びかけた。
これに対し、吉村知事は8月28日の会見で反論。次のように怒りをブチまけている。
「備蓄米を放出しない、倉庫に眠らせておく方がいいんだという理由が、僕は成り立っていないと思います。一般の家庭で、お米が必要な方がなかなか買いにくくなっている。(コメの値段が)高騰している。これから学校が始まって『お弁当を作んなきゃいけない』お子さんがたくさんいる中で『弁当箱にずっとパンを入れ続けるんですか』という話ですよ」
総理在職期間1カ月を切った岸田文雄総理はといえば、
「流通不足の懸念に対処し、市場を注視して、円滑な流通に取り組んでほしい」
坂本氏ら閣僚にそう指示したというが、相変わらずボンヤリした発言に終始している。
吉村知事の発言に、西日本のJA幹部は冷ややかだ。
「有権者へのアピールにすぎず、コメ生産者の立場をまるでわかっていない」
つまり「新米」はすでに市場に流通しており、大阪でコメが足りないのは大阪府内のどこかで「供給がストップしているのではないか」というのだ。続けて、
「台風被害を回避するため、宮崎や鹿児島では7月から収穫が可能な『早場米』を作っています。九州だけでなく千葉や茨城、米どころの北信越でも8月中旬から『早場米』の収穫が始まっている。特に台風10号の接近を受けて、南九州ではコメも果物も前倒しで収穫に追われました。その人件費や燃料費高騰を踏まえた価格なので、まるでコメ生産者がコメ不足に便乗して価格を釣り上げているように言われるのは心外です」
吉村知事やテレビの情報番組は、コメがないと連呼する「集団ヒステリー」状態だが、JA幹部や坂本氏の証言通り、お盆期間をソーメンなどでやり過ごした筆者は、お盆休み明けに都内スーパーで千葉産の新米を難なく入手(写真)。値段は5キロで2700円と、コロナ禍前の新米価格相場と変わらなかった。それでも高いというなら、5キロ1980円でタイ産の高級米、ジャスミン米がスーパーに並べられている。
そもそもコメの価格と流通が不安定なのは消費者がコメを食べなくなり、政府がコメ生産量を抑える「減反政策」を続けているからだ。2018年に安倍晋三内閣は「減反政策廃止」をブチ上げたが、実際には「コメ生産数量目標のみを廃止」したにすぎない。消費者には「減反を廃止してコメを安く買える」とうそぶいたものの、減反したコメ生産者に減産分の収入を保証する「補助金」制度は今も続いている。
コメを買わなくなった消費者が、世界の穀物庫ウクライナがロシアに侵攻されて小麦価格が高騰しているから、今度は「国産のコメを安く売れ」と言うのは、あまりに都合がよすぎるだろう。さらに台風10号がもたらした農作物被害の全貌は、まだわかっていない。
かつてのローマ帝国の愚帝のように、大衆ウケしたい政治家が国民に「娯楽とパン」のバラマキを続けるだけでは、日本の一次産業も他の産業も衰退すると思うのは杞憂だろうか。
(那須優子)