セ・リーグの優勝争いは9月が勝負となる。夏場に落ちてくるかなと思っていた広島が首位で踏ん張ったことで、巨人、阪神と三つ巴の様相となった。その中で巨人が抜けるなら、キーマンは坂本勇人だと思う。経験豊富なベテランは、ここで頑張らないと「いつ頑張るんや」ということ。
最近はスタメンを外れることもあるが、35歳の年齢は僕から言わしたらまだまだ働き盛り。打率2割5分を切るなんて、彼の打撃技術からしたらありえない。ポジションが遊撃から三塁になったのは仕方ないとしても、急にバッティングがガタガタになるのはおかしい。残してきた数字は、すでに球史に残るレジェンド級なんやから。コーチに言われなくても、どうしたら打てるか自分でわかるはず。
通算安打数は落合博満の2371本を抜き、歴代12位となっている。あと5年頑張れば、右打者では最多の野村克也さんの2901本も見えてくる。もっと近いところで言えば、通算の二塁打数の歴代1位が見えている。今シーズン、僕の449本を抜き歴代2位となった。1位は中日・立浪和義監督の持つ487本。ずっと試合に出ていたら、来シーズンにも射程距離に入ってくる数字や。僕の記録を抜いた時は「次やで、次」と声をかけて、立浪の数字を意識させた。伊丹出身の関西の子やから、昔から気にかけてきた。頂点が見えているんやから、老け込んでいる場合やない。
立浪が僕の記録に迫っていた時も激励したことを思い出す。「タイトルを獲っていないんやから、二塁打の記録は絶対に塗り替えなアカンよ」と励ました。天才的なバットコントロールを誇っていたけど、首位打者など打撃タイトルには縁のない選手やったから、何か大きな勲章を手に入れてほしかった。新人王やベストナイン、ゴールデングラブ賞は受賞していても、通算の歴代1位となれば、また価値が違う。晩年はベンチを温める機会が増えていたけど、通算二塁打は僕の記録より38も多い歴代最多の487まで伸ばした。二塁打はスピード、パワーを兼ね備えていないと増えないから、誇れる数字やと思う。
僕は当時、山内一弘さんの持っていた歴代最多二塁打の448本を1本だけ上回って引退した。知り合いの新聞記者に「あと1本で山内さんの記録に並ぶで」と教えてもらって、初めて意識したぐらいで、世間的な関心はあまりなかった。
まだ現役を続けるつもりやっただけに、そこまで気にはしてなかったけど、今振り返れば、記録を作っといてよかった。安打数は衣笠祥雄さんと同じ2543で終わったから、今でも悔しい。キヌさんが前の年に引退して、当時は張本さん、野村さん、王さんに続く4番目の記録やった。後に門田に抜かれて、今は歴代6位タイ。キヌさんには「抜かずにありがとう」と言われたけど、その年に引退するとわかっていたら、タイで終わらずにあと1本は打てていた。
話は坂本に戻るが、老け込まないためには、試合に出ることにこだわらないといけない。ベンチに座る時間が増えると、体に切れがなくなってくる。試合の中での動きは、練習でのダッシュ何本にも相当する。優勝争いのチャンスの中で打席に立てば、名前だけで相手は怖いし、球場が盛り上がる。残してきた数字に恥じないプレーをぜひ見せてほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。