ヒリヒリした9月を過ごしたい。万年、9月は消化試合をこなすだけのエンゼルスから、大谷翔平がドジャースへの移籍を決断した大きな理由の1つがそれだ。
つまり、9月に優勝争いをして、その後はプレーオフへ進出したい。プロのプレーヤーなら当然の夢を、今季の大谷は実現した。
その〝ヒリヒリ〟する9月の真っ只中、日本時間の9月25日から行われているナショナル・リーグ西地区の首位ドジャースと2位パドレスの3連戦は最注目カードだ。
ドジャースは地区優勝マジック4で、この3連戦でマジック対象チームであるパドレスに2勝すれば地区優勝が決まる。たとえ1勝でも、その後のカードが最下位ロッキーズとの3連戦ということで圧倒的に有利だ。
一方、日本のダルビッシュと松井裕樹が所属するパドレスはドジャース相手に3連勝すれば同率で並び、両チームの対戦成績で勝ち越していることで首位に立つ。まさに「負けられない」3連戦なのだ。
そして初戦は4-2でパドレスが逃げ切り勝ち。その9回裏はドジャースが3連打で1点を返し、なお無死1、2塁。バッターは9番のロハス。そして次打者は大谷だったのだ。
ところが、ロハスの放った強い打球は3塁正面。そのまま3塁ベースを踏むと、ボールは2塁→1塁へと転送され、誰もが予期しなかったあまりに劇的なトリプルプレーでゲームセットとなったのだ。
当然、日本国内でも視聴者が多かったこのカード、またたく間に「トリプルプレー」がトレンド1位となり、口々に「信じられない」「まさか大谷に打順が回らないとは…」とする感想が相次いだ。
また、試合中にはアメリカン・リーグ西地区1位のアストロズが地区優勝を決めたことによるシャンパンファイトが中継された。パドレスも勝利後にワイルドカード以上でのポストシーズン進出が決まったことで、同じくシャンパイファイトを敢行していた。まさにヒリヒリする9月ならではの光景が繰り広げられたのだ。
そして、同時に多方から聞こえてきたのが「なんで日本のプロ野球はこんなにヒリヒリしないんだ」という声だった。野球記者が話す。
「このドジャース×パドレスは、どちらも157試合目。MLBは中止分の試合を予備日に容赦なく入れるなどして、9月30日で全球団が162試合を終了するように日程を組んでいます。そのせいで、10連戦以上は当たり前。それでもなんらかの形で中止になる試合が出てきた場合は、プレーオフに関係なく、しかも両チームの順位が決定している試合はカットされます。10月に入るとすぐにプレーオフが開幕しますから、消化試合にその邪魔はさせないというわけです。しかも今季からは、ア・リーグとナ・リーグのリーグ優勝戦が(4連勝などで)どちらも早く終了した場合、ワールドシリーズを3日前倒しで開幕させます。とにかく盛り上がりと緊張感を緩めたくないという、エンタメに特化したアメリカならではの考え方ですね。MLBの真似を何でもする日本のプロ野球ですが、これだけは何年経っても追従しないことから、この日のトリプルプレーのあとに『プロ野球はヒリヒリしない』と苦言が聞かれたわけです」
事実、セ・リーグのペナントを争っている巨人と阪神は残り試合の日程がバラバラ。当該チームのファン以外にはドキドキもハラハラもない、まったく緊張感のない日程となっている。
「問題はすべて後ろ倒しにすること。現状、10月7日まで試合が組まれていますが、間違いなくその数日前に優勝チームは決まっています。クライマックスシリーズの争いがあるかもしれませんが、それこそ9月のポツポツ空いている日に入れればいいだけのこと。しかも、10月のカードの雨天中止予備用に8日~11日までが全球団スケジュールが空いたまま。この間延び感が、近年のプロ野球がにわか層から『つまらない』と言われる元凶だと早く気づくべきですね」(前出・野球記者)
MLBは日本時間の10月2日から「ワイルドカードシリーズ」「ディビジョンシリーズ」「リーグチャンピオンシリーズ」、そして「ワールドシリーズ」と4つのプレーオフが行われる。にもかかわらず、早ければ10月31日ですべて終了となる。
大谷がどこまで進めるかは神のみぞ知るが、今季はメジャーのポストシーズンの視聴率が例年になく高いことが予想される。
ヒリヒリする大谷のあとで、ダラダラとした日本シリーズで果たしてどこまで国内が盛り上がるのだろうか。
(田村元希)