初秋の季節になり、保育園や幼稚園では来年度入園に向けた入園説明会が始まった。説明会では歯の浮くような「理想論」が語られるが、現実の幼児教育の現場は、想像を絶する事件・事故だらけ。ヨチヨチ歩きの1歳時の足を持って逆さ吊りにする、部屋に閉じ込める、女性職員が園児の首を刺す、親が経営する保育園の元保育士が園児7人に性的暴行を加える、3歳児を登園バスに閉じ込め熱中症で死なせる…と枚挙にいとまがない。
どの親も、好きで子供を保育園に預けているわけではない。育児世帯は給料の4割を税金と社会保険料に持っていかれる北欧並みの高負担を強いられているから、生活のため、キャリアアップのため、仕事を続けざるをえない。それなのに、信頼して預けた保育園や幼稚園、子ども園で幼い我が子が虐待される、性的暴行される。この国では上級国民以外が子供を産むこと自体が「絶望の罰ゲーム」になってしまった。
そう嘆いたところで、親子が生きていくためには、仕事を辞められない。ならば親や祖父母が「いい保育園、幼稚園」「悪い保育園、幼稚園」を見分けて自衛するしかなかろう。
多くの人が誤解しているのが、認可保育園と認可外保育園の差だ。とりわけ「認可保育園はお上のお墨付きだから、質がともなっている」と勘違いする祖父母世代が多い。
認可保育園は児童福祉法で定められた基準を全て満たす保育施設で、入園は区市町村への申し込みが必要となる。自治体から助成金が出ているため、保育料は収入に応じて自治体が上限を設定、親の金銭的負担が少ないのがメリットだ。
定められた基準とは「0歳児は3人の乳児に対し1人の保育士」「1、2歳児は6人の幼児に1人の保育士」など、保育士の人員や施設面積の縛りがある。
では、これらの基準を満たさない保育施設や、認可を申請していない保育施設、いわゆる認可外保育園が信用できないのかというと、実情は違う。
パリ五輪の新競技ブレイキンの日本女子代表AYUMIはブレイクダンスの選手として活躍する傍ら、幼稚園で体育と英会話を教える「二刀流アスリート」だ。自治体の基準を満たした広い園庭を持たない代わりに、専門講師による英会話、リトミック、器械体操、ダンス、お受験準備など「独自の教育サービス」を提供するため、あえて自治体の縛りを受けない認可外保育園がある。
特に人口が密集する東京や大阪は、児童福祉法とは別の、自治体独自の施設基準を設けており、それらの基準を満たしている認可外保育園がある。認可外なので保育料は月額10万円を超えるが、その分、経済的余裕がある、社会的信用を得ている家庭が集まる、という効果がある。
なぜこんな長い説明をしたかというと、自治体お墨付きの認可保育園の中には、自治体からの助成金を目当てにした、「あまり筋の良くない」社会福祉法人が紛れ込んでいるからだ。認可保育園というだけで「思考停止」し、保育園を運営している社会福祉法人や学校法人、経営幹部の評判までネット検索する保護者は案外、少ない。
冒頭で書いた、保育園経営者の息子が園児7人に性的暴行した事件にしても、舞台となったのは都内の認可保育園である。不同意性交罪などに問われ、現在公判中の長田凪巧被告の評判は、事件発覚前から芳しくなかった。保護者から「なぜ都内の別の保育園を辞めて、親が経営する保育園に潜り込んだのか」と、長田被告の職務経歴を疑問視する声が上がっていたのだ。
国会議事堂などでデモ活動をする市民団体が「社会福祉法人」を作り、自治体からの助成金を役員報酬名目で活動費用に充て、現場の保育士は時給1100円、1200円という薄給で働かされている保育園もある。老人介護施設で事件や不祥事を起こし、自治体から行政指導を受けた社会福祉法人が、保育園を多角経営していることも。
保育園選び、幼稚園選びをする際、ネット上の評判はもちろん、運営主体の社会福祉法人、学校法人が過去に行政指導を受けていないか、自治体のサイトでの確認作業は必須だ。
今から約10年前に、保育園に入れない「待機児童」問題が露呈して以降、自治体の首長が人気取りのため認可保育園を粗製濫造してしまった。この背景を知らないと、鬼畜のような保育士が待ち受ける「認可保育園」とも知らず、我が子を預けてしまうことになる。
(那須優子)