サッカー日本代表の歴史を振り返れば、ラモス瑠偉や呂比須ワグナー、三都主アレサンドロ、田中マルクス闘莉王と、日本に帰化した選手を積極的に起用し、世界の舞台で戦ってきた。サッカー後進国だったかつての日本では、こうした裏ワザもまた重要だったのだ。
しかし、こと令和の時代に至っては、逆に日本人選手が海外の代表に引き抜かれかねない事態が起きつつある。
その選手とは現在、ブンデス・リーガ(ドイツ)の名門シュツットガルトに所属するチェイス・アンリだ。この弱冠20歳のディフェンダーを、サッカーライターが解説する。
「在日アメリカ軍の父と日本人の母との間に生まれた、いわゆる二重国籍を持つハーフです。3歳から12歳までを米テキサス州で過ごし、中学校入学時に帰国した。日本でサッカーを始めました。瞬く間に頭角を現し、高校では福島の強豪校である尚志に進学。世代別代表に飛び級で選ばれる有望選手でした。彼の実力を物語っているのが、高校卒業後にJリーグを経由せず、ドイツに直行したこと。先日、欧州のクラブ試合最高峰であるチャンピオンズリーグに出場し、レアル・マドリードのエースでブラジル代表のヴィニシウスとマッチアップし、善戦しています。そんな彼が今、アメリカ代表から熱視線を注がれているのです」
日本は独自の国籍法を持っており、二重国籍を持つハーフは21歳の誕生日になるまでに国籍を選択する必要がある。来年の誕生日までに、アンリは日本国籍とアメリカ国籍のどちらかを選ぶことになる。
サッカー代表選手となると、いかに世代別代表で活躍していようが、いわゆるA代表の試合に出場していなければ、先にツバをつけた方が勝ち。まだ日本A代表に選出されていないアンリが星条旗を胸に、かの国の代表チーム入りすることは可能な状態なのだ。前出のサッカーライターは、
「森保一監督は基本的に、保守的な選手選考をする人です。三苫薫や久保建英を擁し、絶好調の代表チームはケガ人などのイレギュラーを除くと、ほぼメンツを固定していると言っていい。いくらアンリがドイツで華々しい活躍をしても、なかなか選考されません。とはいえ、現在の日本代表のセンターバックは富安健洋や板倉滉、谷口彰吾と、高齢化してきています。187センチの長身でフィジカルが強く、なおかつサッカーを始めてまだ8年なのにヨーロッパでバリバリやっているアンリには、伸びしろしかない。その選手をアメリカ代表に奪い取られるわけにいかないでしょう」
ちなみにアンリの誕生日は来年3月。それまでにA代表に招集し、数分でもいいから最終予選で何試合か使えば、FIFAの規定でアメリカ代表入りすることはできなくなる。なにしろアメリカ代表は次回(2026年)W杯の共同開催国。最近の代表戦勝率は高くなく、なりふり構わない強化策を取ると言われているのだ。
それにしても、選手を大量輸入してきた日本が、ついに輸出国になろうとは…。森保監督の決断が待たれる。