今年2月、ロシアの反体制指導者として知られるナワリヌイ氏が北極圏にある刑務所で死亡した。この獄中死をめぐっては、当初から「独裁者プーチンの命によって葬り去られたのではないか」との憶測が飛び交っていた。
一方、ロシアの連邦捜査委員会は今年7月末、「ナワリヌイ氏は散歩後に意識を失った。死は不整脈による自然死であり、刑事捜査の必要はない」との調査報告書を公にしている。
ところが、である。つい最近、ロシアの独立系メディア「インサイダー」が「7月末の調査報告書は改竄されていた」とスッパ抜いたのだ。
それによれば、調査報告書には「ナリヌワイ氏は死亡する直前、激しい腹痛を訴え、嘔吐と痙攣を起こしていた」との記載があったが、これらの文言は最終稿から削除される形で公表されるに至ったというのだ。
ナリヌワイ氏は2020年にも、猛毒のノビチョク系神経剤による襲撃を受けている。この時にシベリアでナリヌワイ氏の治療にあたった医師は、公式文書改竄の事実が露見したナリヌワイ氏の獄中死について、次のように指摘している。
「公式死因の不整脈では、腹痛や嘔吐や痙攣などの症状を説明することができない。これらの症状が短い間隔で発現したことを考えると、ノビチョクと同等の猛毒物質が使用された可能性が高く、ナリヌワイ氏の死を毒物の混入以外で説明することは難しい」
そして改竄の事実を報じたインサイダーも「ナリヌワイ氏は自然死ではなく毒殺死だった」と断じているのだ。
言うまでもなく、因縁の政敵を獄中で殺害するという重大な決定を下せる者は、独裁者プーチン以外には存在しない。とすれば、2020年に起きたノビチョク系神経剤による暗殺未遂事件も、プーチンの指令による謀略だったことになる。
この一事をもってしても、プーチンが「21世紀の虐殺王」であることは明らかだ。
(石森巌)