北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(33)による“ミサイル外交”は、8月14日にグアム沖へのミサイル発射を示唆したかと思えば、26日には日本海に向けて、またもや3発を威嚇発射。「米韓合同軍事演習」で力を誇示する超大国・アメリカのトランプ大統領(71)をあざ笑うかのように先手を打ち、翻弄し続けている。そのしたたかな戦略に、「天才」の評価が浮上しているのだ。
北朝鮮問題に詳しい、ジャーナリストの惠谷治氏が語る。
「本来、北朝鮮が出す金正恩氏の声明は、国内向けに権力を誇示する意味合いが強かった。ところが今年に入って、ミサイル技術の急激な進歩により、外交面で揺さぶりをかけられるだけの発言力の“根拠”にもなっている。挑発的な一連の発言についても金正恩はそのことをよくわかっています」
これまで北朝鮮といえば、危機をあおって譲歩を引き出す「瀬戸際外交」で、大国相手に交渉を続けてきた。だが、11年末に金正日総書記が亡くなり、弱冠27歳だった金正恩氏が政権トップに就くと、強硬な外交姿勢にシフト。日本はもとより、韓国や友好国である中国からの“忠告”も無視し、中朝国境を事実上閉鎖される一方、アメリカの軍事的な恫喝に対してもファイティングポーズを崩そうとしないのだ。
北朝鮮事情に詳しい作家の北一策氏は「金正恩氏が持つ生来の“気質”が強みだ」と解説する。
「金正日氏が生前に語っていたのは、『次期指導者は、何より胆力がなければならない』ということだった。胆力とは、『何も恐れずに戦争を起こせる』という意味で、大国に一歩も引かない正恩氏にはそれがあるということ。また正恩氏は、かつてスイスに留学した際に西欧の“民主主義”を学び、意見対立の激しい民族性を持つ朝鮮人にとっては“強権発動”こそが唯一の人民をまとめる手段である、と悟った。彼はみずからの冷静な判断のもと、米国に屈することのない“独裁暴君”でい続けているのです」
つまり、「経験不足の暴君」ではなく、「胆力のある独裁者」こそが、金正恩氏の“正体”だというのだ。
さらに見逃せないのは、金正恩体制を支える側近の存在だ。龍谷大学社会学部の李相哲教授によれば、
「北朝鮮の外交現場で働く実務者はここ30~40年、顔ぶれがほとんど変わっていません。これは、金正恩氏が外交ラインを粛清していないため。トランプ大統領の発言や中国の動向なども、その真意は何かということが彼らには手に取るようにわかる。大国に対して先手を打つような外交ができるのです。外交素人のトランプ氏や韓国の文在寅大統領などに比べて、北朝鮮が最もうまく立ち回れているのはこのためです」
むしろ外交素人は米中の大国側だと、北朝鮮はほくそ笑んでいるに違いない。