アメリカの政治学者で、60年間にわたり日本の政治を見てきた、コロンビア大学名誉教授のジェラルド・カーティス氏が日経新聞のインタビュー(10月7日)で、石破茂首相と鳩山由紀夫元首相は「不気味なほど重なる」と発言した件が波紋を広げている。
カーティス氏は、総裁選の期間中に石破氏が(アメリカの)共和党に近いハドソン研究所の求めに応じて論文を出したのは「賢明ではなかった」とした。この中で石破氏は、持論のアジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設や日米地位協定の見直しの必要性について説明している。カーティス氏は、
「石破氏の言葉は、普天間基地の唐突な移設案や『東アジア共同体』の構想で米国を怒らせた鳩山由紀夫元首相と不気味なほど重なる」
との認識を示した。その上で、次のようにも言及している。
「石破首相の在任期間中にこれらを実現できるはずもなく、不要な発言を続ければ米国をはじめ諸外国の指導者から信頼されなくなるだけだ」
カーティス氏の批判は閣僚人事にも及び、
「期待外れだ。『新しい自民党』という印象はない。各国首脳や閣僚間の外交が極めて重要な時期に、首相も主要閣僚の一部も英語を話さないとみられるのは残念だ」
まさにコキ下ろしである。
石破首相は所信表明演説や公約ではアジア版NATOや地位協定の見直しを封印したが、カーティス氏は、総選挙の結果によっては「石破政権崩壊」の可能性を示唆している。いわく、
「石破氏がいつまで首相の座にとどまれるかは疑問だ」
「野党が不安定なのは、石破氏と自民党にとっては幸いだ。だが、それにもかかわらず10月27日の総選挙で自民党が相当数の議席を失えば、『石破下ろし』の動きが早々に勢いづくかもしれない」
鳩山元首相は普天間移設について「最低でも県外」と明言し、その実現に力を入れたものの実現せず、在任8カ月の短命政権に終わった。仮に石破氏が総選挙の責任を取って辞任すればわずか1カ月となり、鳩山氏や2カ月で退陣した羽田孜元首相よりも短くなる。
「石破氏としてみれば、鳩山、羽田両氏と比較されるのだけは避けたい。総選挙ではできる限り議席減を少なくし、石にかじりついても政権を維持しようとするだろう」
石破氏を知る閣僚経験者は、そう語るのだった。
(高橋昌行/政治ジャーナリスト)