凱旋門賞は10月第1週の日曜日と決まっている。今年は10月6日。パリに出かけて5日目だった。
その間は定点観測のように、各所をぐるぐる回って過ごした。この時期になると出回るムール貝は、今回もお世話になっているマダム悦子宅で、一行4人でお邪魔してごちそうになった。5人で2.4キロのムールマリニエール(ワイン蒸し)を、瞬く間に食い尽くした。
レース当日は、ホテルを11時に出発。実は2年前には、平開催のロンシャン競馬場に出かけている。その時はメトロのポン・ド・ヌイイ駅で降り、ロンシャン行きのバスを利用したが、今回は別ルートのメトロのポルト・マイヨー駅で降りてシャトルバスを利用した。
前回もそうだが、不思議なのが、駅に着いてもロンシャンに行くファンの姿がほぼ見当たらないこと。地上に出てシャトルバスが出ている場所を尋ねても、知らないという。
結局、反対側の出口まで行ったら、ロンシャン行きの案内をしているスタッフがポツンとひとり、道案内をしていた。シャトルバス乗り場へはそこから数分、歩かなければならない。
「凱旋門賞当日だけでも、もっとわかりやすく道案内してくれればいいのに」
マダム悦子がそう言うのも無理はない。
バスがロンシャンに近づくと渋滞し、普段は20分ほどの所要時間が30分以上かかってようやく、名物の風車小屋が見えてきた。
バスを降りてゲートに歩いていくと、「歓迎」と日本語で書かれたアーチが見えてきた。日本人が凱旋門賞をめがけてやってきているのだろう。一行5人のうち、4人は20ユーロのエリア、筆者がゴール前の65ユーロエリアなので、別々に入場した。
この日のロンシャンは小雨が降ってはやむという、ハッキリしない天候。レースは重馬場で行われる。到着は12時半前後で、1Rの発走は13時55分だった。20ユーロエリアに移動すると、同行した知人の娘とパートナーは食い気に走って、スタンド後方の広場にズラッと並んでいるハンバーガーやホットドッグなど、ファストフードのキッチンカーの列に並んでいる。こちらは駆けつけ一杯のシャンパン(Brut)14ユーロ、日本円で約2400円!
場内は前回の平開催の時とは断然、華やかさが違う。スーツ姿の男性、ドレスにピンヒールで闊歩する女性…。日本人のグループもチラホラ、中には着物姿の夫人もいる。
「混雑する前に馬券を買っておこう」
マダム悦子に声をかけて、発券機へと向かう。これが難物だ。前回は競馬場をどうやってもセレクトできず、どうにかこうにか買うことができたと思ったら、オーストリアの競馬場の馬券を買っていた。それが…。
翌日、パリ市内にある場外発売所PMUで確認したら、これがなんと的中していた。払い戻しは114ユーロ。思わずマダム悦子とハイタッチしていた。
はたして今回は、発券機を克服できるか。買い目は事前に決めている。それを打ち込んでいたのだが、レース場、レース、賭け式、金額とスムーズに打ち込むことができず、モタついていたらスタッフが近づいてきて、懇切丁寧にやってくれた。
馬券はワイドの5頭ボックス、複勝3点だ。続けて連れあいのゆっちゃんとマダム悦子の馬券も買っていたら、娘とパートナーも相乗りするという。
「武豊が乗るアイルランドの馬④アルリファー、坂井瑠星が乗る日本の馬⑩シンエンペラーが3着まで入る可能性があるから、悦子さんとゆっちゃんは④と⑩の複勝を各10ユーロずつ」
マダム悦子が言う。
「私も武さんを買っておこうかなと思っていたの」
彼女にはこんな思い出があるからだ。
武は11回目の凱旋門賞挑戦だが、2001年にはフランスで武者修業をしていた。その時にマダム悦子は、現地のコーディネーターとして関わった。
「この時は作家の伊集院静さんもやってきて、武さんが走るトゥールーズの競馬場まで出かけたの。武さん、伊集院さんと空港に行ったけど、イベントか何かでパリ市内を出るのが遅れちゃって。自家用車で移動した武さんだけが飛行機に乗れて、タクシーの伊集院さんと私は乗り遅れてしまった思い出がある」
ちなみに武が初めて凱旋門賞に挑戦したのは、ホワイトマズルに騎乗した1994年だ。武さん、マダム悦子のために頼みまする…。(つづく)
(峯田淳/コラムニスト)