「もちろん騙す方が絶対的に悪いけど、騙される方もこれはどうかしてるんじゃないの」
悪徳商法で騙された被害者らに対し、世間の人が少なからず漏らす言葉である。
ねずみ講にしろマルチ商法にしろ、被害者は脅され、監禁されて金を奪われるわけではない。だが彼らは「沈没船を引き上げれば」「通信衛星に投資すれば」「投資金が半年で○倍になる」などとロマンあるセールストークで人々の心を揺さぶり、一度でも口車に乗ろうものなら、心の隙間に入り込みマインドコントロールして、地獄へと突き落とす。おかしいなとは思っていても、途中で簡単には抜け出せない…そんな心理状況に追い込む。それが悪徳商法の恐ろしさなのである。
彼らが扱う商品は時流に乗ったものが多く、「もしかしたらこの先、本当に発展する事業なのではないか」と思わせるモノが多い。そのひとつが電子マネーだった。
独自の電子マネーをエサに、全国のおよそ5万人から1000億円を超える資金を集めたのが、「エル・アンド・ジー」創業者の波和二会長だった。
同社はもともと布団や健康食品などの販売を主な事業としていたが、2001年に「円天」なる電子マネー形式の疑似通貨を発行。円天市場では「一般商店」から持ち込まれた商品をこの市場を通じて販売し、店側からは出店権を得る。一方の顧客は「商店」から持ち込まれた商品を「円天」で購入するのだが、エル・アンド・ジーは「最初に100万円を預ければ、元本を保証した上で、3カ月ごとに9万円を支払う」と説明。不特定多数から協力金と称して、多額の出資金を集めた。
冷静に考えれば元金保証、年利36%などといううまい話があるわけがない。しかし最初は滞ることなくきちんと支払いがなされることで、顧客は完全に信用し、気が付くと…というお決まりパターンが待っていたのである。
さらに、この「円天」詐欺拡大の片棒を担ぐことになったのが、芸能人たちによるド派手な宣伝だった。エル・アンド・ジーは高額な出演料を払い、「豪華アーティスト出演」のコンサートを開催。顧客を無料で招待すると、有名歌手に「今後とも円天をよろしくお願いします」などと言わせ、信用させていた。細川たかし、研ナオコ、桂銀淑、美川憲一ら、関わった芸能人は多数にのぼるとされる。
iPhoneが日本に上陸したのが2008年だから、まだスマホが登場していなかった時代。もちろん電子マネーなどいう概念など今ほど身近ではなかったことで「もしかしたら、素晴らしい話があるのかもしれない」と大いに説得力を持たせることになったのである。
しかし2010年3月、東京地裁は波会長に懲役18年の実刑を言い渡し、1000億円を超える巨額詐欺事件は、刑法上の終焉を迎えたのである。
(丑嶋一平)