大手電話会社が保有する電話網と、自社のそれとを繋ぐ中継局の通信サーバー設置費用を投資家に出資させ、通話料の一部を配当金として還元。これを謳い文句に3000人以上の投資家から400億円を集め、2007年に破綻したのが「近未来通信」である。
同社は加盟金と設備費合わせ、おおよそ1000万円でオーナーを募集。口コミでは「毎月、数十万円が配当され、数年で元を取れる」と喧伝されていたが、総務省の調査によれば、実際に稼働していたサーバーは2400余りのうち、わずか7台。しかも総務省の立ち入り検査により、2005年7月期に181億円あるとしていた売上金の98%が、実は投資家から集めた金であることが判明する。つまり通信事業の実態はほとんどなく、新規オーナーから出資金を集め、それを配当に回すという典型的な自転車操業を繰り返していたことが明らかになったのである。
詐欺事件を取材してきたジャーナリストが、当時を振り返る。
「少しでもインターネットの知識があれば、インチキであることはすぐわかるものの、騙された被害者の多くが、ネット知識が乏しい中高年だった。そこに狙いを定めて『これから間違いなく発展する新しい事業』と信じ込ませ、投資を募っていたようです」
近未来通信を立ち上げた石井優社長は大学を卒業後、大手製薬会社に入社するも、3年で退社。その後は健康器具や毛皮、宝石類などを販売する有限会社を設立し、やがて通信事業に目をつけたとされる。
とはいえ、全く無名だった同社をあたかも優良企業のごとく宣伝し、結果として投資詐欺の片棒を担いだのが、新聞やテレビをはじめとした大手マスコミだった。
というのも、近未来通信は朝日新聞や日経新聞をはじめ、中高年世代が目にするビジネス雑誌等に、有名人を使った広告を大々的に掲載。並行して人気テレビ番組のスポンサーを務め、有名タレントを使ってテレビCMを流しまくったのである。
「被害者の大半は『朝日や日経に広告を出す会社だから大丈夫』『誰でも知っている有名番組のスポンサーを務めているから間違いない』といった先入観のもと、まんまと投資詐欺に引っかかってしまったというわけなんです」(前出・ジャーナリスト)
むろん投資するかしないかの判断は、本人の自己責任による。しかし、広告費さえもらえばそれどんな会社でも構わない、といった一部メディアの不見識や無責任ぶりが詐欺行為を助長させ、被害者を拡大させたことは、まぎれもない事実だ。
石井社長は刑事事件に問われ、現在も国際手配中だが、中国に入国しことが明らかになっている以外、その行方は杳として知れない。事件の真相究明のためにも、一刻も早い逮捕を願うばかりである。
(丑嶋一平)