マルチ商法の被害者の中には、老後の貯えを騙し取られた高齢者や、子供の学費にと貯めていたお金を根こそぎ奪われた主婦など、様々なケースがある。
では、こんな例はどうだろうか。消費者金融会社の支店長を抱き込み、収入がない女性や高齢者らをマイクロバスで消費者金融の支店に連れていき、そこで金を借りさせて投資資金をむしり取るという大胆な手口。会員1万3000人から500億円もの金をかき集めたのが「リッチランド」だった。
同社は表向き、東京・赤羽に本社を置く健康食品会社なのだが、やれ「東欧の不動産投資事業をしている」だの「財宝を積んだままインドネシア沖に沈んだオランダ貿易船の引き揚げ事業に投資できる」だのと、スケールの大きな話をデッチ上げて勧誘。しかも投資金額が1口50万円から300万円という、庶民でもちょっと無理すればなんとかなりそうな金額に設定する。集めた金のうち、約100億円は実際に欧州にある複数の銀行に送金していたものの、事業に投資されていた形跡はなし。新たな資金者から集めた金を別の資金者へ回すという、絵に描いたような「自転車操業」を繰り返していたのである。
そんなリッチランドの会員集めに絶大な効果を発揮したのが、2002年に摘発された「八葉事件」などで使用された4万人の住所氏名、連絡先のほか、口座番号が掲載された顧客名簿だった。リッチランドは、この手の名簿を業者から数百万円で買い取っていたが、会員の中には「何度も騙されているマルチ常連客」が少なくなかった。
しかし、自転車操業が長く続くはずもなく、2007年1月、佐伯万寿夫代表ほか17人が詐欺容疑などで逮捕されることに。同社の相談役は1997年に「和牛オーナー商法」で摘発され、有罪判決を受けた「その世界では有名」な人物だった。
この相談役は講演などで出資者から「違法なのではないか」との質問が出るたび、
「ウチの兄貴が神奈川県警の本部長をしているので、守ってくれるから大丈夫」
とうそぶいていたという。確かに神奈川県警に同じ苗字の本部長がいたものの、むろん相談役とは何の関係もなかった。
「リッチランドが悪質なのは、現金を持たない出資者に対して、消費者金融で借金させてまで金を作らせたこと。被害者は金を騙し取られたあげく、金利まで支払わなければならなくなった。自己破産したり、自ら命を絶った者もいたそうです」(社会部記者)
そんなリッチランドは代表らの逮捕により経営破綻したが、逮捕を逃れた残党は散り散りバラバラになり、全国各地で別のマルチ会社を立ち上げる。またも「カモ顧客名簿」を利用しながら「今度こそ大丈夫ですよ!」と説明会への勧誘を続けていくのであった。
(丑嶋一平)