報道各社が衆院選序盤の選挙情勢で「与党過半数確保」(読売新聞)、「与党過半数維持」(毎日新聞)などと与党の勝利を予想していることについて、自民党内では警戒感が広がっている。あるベテラン候補者が言うには、
「肌感覚としては、もっと厳しい。過半数割れしてもおかしくはない」
党内で囁かれているのが「40日抗争」の再来だ。「抗争事件」というとヤクザの世界のようだが、今から45年前の昭和54年(1979年)10月の総選挙に敗北し、過半数割れしたことを受けて、自民党主流派だった大平派、田中派と反主流派の福田派、三木派、中曽根派などが40日間にわたり繰り広げた、派閥間での争いを指す。産経新聞の論説委員はコラムで、こんなふうに書いている。
〈「本当に40日抗争の再来があるんじゃないか」。衆院選公示当日の15日、永田町でこんな予想がささやかれていると聞いた。選挙結果がどうなるのかはまだ分からないのだから、現時点ではあくまで一つの見立てにすぎないが、あり得る話だと妙に得心した〉
言論プラットフォーム「アゴラ研究所」の池田信夫所長もXに、高市早苗前経済安全保障担当相が、石破茂首相(総裁)の裁定で非公認になった旧安倍派の候補の応援に回っている記事について〈もう分裂選挙だね。これで与党が過半数を割ったら、石破おろしで「四十日抗争」が始まる〉と記している。
もっとも、当時とは異なり、主要な派閥が解散してしまったため、「石破おろし」をするにも役者がいない。そうした中でも中心人物となりうるのが、安倍晋三元首相の側近であり、元政調会長の萩生田光一氏だ。高市氏は10月17日に、萩生田氏の応援演説に入った。
萩生田氏は与党の一角である公明党と、都連会長時代に候補者擁立をめぐって対立したこともあり、他の非公認候補が相次いで推薦を受ける中、いまだに推薦をもらっていない。萩生田氏の地元・東京都八王子市には公明党の支持母体である創価学会の施設があり、公明党が強い選挙区として知られている。
早実時代、卒業パーティー券を売っていたのがバレて1回目の停学処分を食らい、朝鮮高校の生徒と乱闘して2回目の停学処分を食らったことから「番長」のあだ名がある萩生田氏。その当落は今後の政局を占うにあたり、重要な意味を持つだろう。
(田中紘二/政治ジャーナリスト)