名越 本の話に移りますが、サブタイトルに「霞が関官僚の英語格闘記」とあるように、豊富な海外経験をお持ちですよね。
大矢 86年に入省して、ニューヨークにあるコロンビア大学ロースクールに2年留学。その後、ワシントンのIMFに3年、世界銀行に3年、そしてマニラのアジア開発銀行(ADB)に3年赴任しました。在職中に海外出張を100回近くしています。
名越 英語を使って難しい交渉もたくさんなさってきたわけですが、この本を書いたきっかけを教えてください。
大矢 海外で長く仕事をしてきて、その間にかなり苦労をしました。それを財務省の広報誌に時々書いていたんです。15回分たまったのがちょうど退官する時期だったこともあって「ストーリー性を持たせて本にして、世の中の方に読んでいただく頃ではないか」と思い、出版する運びになりました。
名越 サンドイッチ店で「Kind of bread?」とパンの種類を聞かれたのに「Everything, please(全部)」と答えてしまったり、G7財務大臣会議に出張した時、サンドイッチを買って会場に戻ると、入口で「What is inside? Sandwich?」と係員に聞かれて「No, I don’t play golf today」と、サンドイッチをゴルフクラブのサンドウエッジと聞き違えたり、色々な失敗エピソードが書かれています。
大矢 〝サンドイッチ問題〟は、なかなか大変でしたね(笑)。
名越 英語で仕事をする際、一番大事なことは何だと思いますか。
大矢 コミュニケーションです。相手の懐に飛び込んでいくという、ハートの問題も相当あります。正確な文法を身につける必要はないので、本に書いてあることに加えて度胸をつけていただいて「これぐらいの失敗なら大丈夫」と勇気を持って臨んでいただければと思います。
名越 英語でコミュニケーションを取る秘訣を教えてください。
大矢 例えばアメリカだと、各州の首都や地理、そしてアメフト、バスケ、野球のプロチームを覚えること。故郷のチームには皆さん誇りを持っていますからね。カンザスシティ出身の人に「チーフス(アメフト)のファン?」と聞いたら、大喜びされて話が弾みました。
名越 ニューヨーク・ヤンキースが好きと言わない方がいいですね。
大矢 大都市のチームを出すのはアンチも多いので危険です(笑)。だから、うちの息子は「松井ファン」と言ってました。
ゲスト:大矢俊雄(おおや・としお)1986年大蔵省入省。コロンビア大学ロースクール留学、IMF審議役、世界銀行理事代理、アジア開発銀行(在マニラ)人事・予算担当局長、財務省大臣官房審議官(国際局担当)、国際協力銀行常務取締役、などを歴任。現在は株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)のエグゼクティブ・エコノミスト、及び株式会社アルムの取締役兼チーフ・グローバル・インベストメント・オフィサーを務める。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書)、「独裁者プーチン」(文春新書)など。