名越 大矢さんは、大使館勤務はなかったそうですが、私は海外の特派員時代、大使館内での省庁同士の情報共有があまりされていないと感じました。
大矢 今は随分変わりました。私の最後の仕事は内閣官房で「海外ビジネス投資支援室長」として、日本企業の海外での事業を支援することでした。世界の国には関税政策や投資規制など、色々な規制があるので、大使の方々に頑張って規制緩和の要望をしていただくことが大事なんです。今ではそういう意識が随分高まってきたと思います。
名越 「オールジャパン」でやらないといけない時代ということですね。
大矢 他国に技術で負け始めている分野がいくつもあます。なので「オールジャパン」で相当頑張らないと取り返しのつかないことになるという意識が、官邸を含めてあります。本にも書きましたが、ウクライナは戦争が終わった後、色々な国がビジネスをやろうとして、日本も各省庁がそれぞれの専門性を生かして、全力で当たっています。
名越 ロシアが攻撃した時、ウクライナに日本人は250人しかいなかったんですけど、中国人は6000人もいた。コロナの前は1万6000人ぐらいいて、一帯一路の拠点として重視していたところがあります。日本のウクライナ対策はどうですか。
大矢 終戦後を見据えて、今から現地のパートナーを探すこと。どういう技術が必要とされているのか、ニーズをきちんと把握すること。この2点が大事だと思います。
名越 ウクライナは技術者もたくさんいて、ITで技術立国になろうとしています。どんな技術を必要としているのですか。
大矢 例えばリモート技術です。現地の学校で授業ができないので、リモート授業やリモート医療、リモート農業にニーズがあります。私は日本企業の170社くらいの方とお会いして、どういう技術を持っているのか聞いて、諸外国に勝てるものを国際機関などに行って「これはどうでしょうか」「ご関心はありますか」と売り込む、セールスマンのようなことをしていました。
名越 なるほど。これから日本が世界で生き延びていくには、やっぱりこちらから打って出る英語力が重要になってきますね。
大矢 まさにその通りです。
ゲスト:大矢俊雄(おおや・としお)1986年大蔵省入省。コロンビア大学ロースクール留学、IMF審議役、世界銀行理事代理、アジア開発銀行(在マニラ)人事・予算担当局長、財務省大臣官房審議官(国際局担当)、国際協力銀行常務取締役、などを歴任。現在は株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)のエグゼクティブ・エコノミスト、及び株式会社アルムの取締役兼チーフ・グローバル・インベストメント・オフィサーを務める。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書)、「独裁者プーチン」(文春新書)など。