「『エイゴは、辛いよ。』霞が関官僚の英語格闘記」大矢俊雄/1760円・東洋経済新報社
IMF審議役、世界銀行理事代理などを務め、海外経験豊富な元財務省官僚の大矢俊雄氏が、海外赴任中のユニークな体験談を記した本書。役に立つ英語術から、為替相場の動向など、財務官僚ならではの日本経済のリアルを語る!
名越 大矢さんは1986年に大蔵省(現・財務省)に入省して、昨年、退官されました。まずは日本経済について今後の見通しを教えてください。
大矢 まず財政について。傾向として長期金利が上がり、財政的には困ったことになります。ただし急には利払いは増えません。
名越 それは、どういうことですか。
大矢 国債は固定金利が多く、期限がきて借り換える時に金利が変わるからです。しかし、借り換えは不断に起こるので、確実に利払い費が増えていきます。長い目で見ると社会保障や子育て支援、防衛費、技術開発などに使う予算に制約が生じる可能性があります。
名越 日本は今や巨大な借金を背負ってますから。どうして、こうなったんででしょう。
大矢 低利の国債発行が可能だった状況がありました。例えば日銀のマイナス金利政策の中で、普通預金の金利はほとんどゼロに近かったので、低金利でも国債が売れました。日銀の国債購入増で全体の国債発行残高の半分は日銀が持っていますし、銀行も買ってくれました。2010年代に起きたギリシャ財政危機の時は、外国人が国債をたくさん持っていて、一斉に売ったので、財政危機が起こりました。日本の国債の外国人保有率は1割を少し超えたぐらいなので、暴落するということは恐らくありません。
名越 韓国は97年のアジア通貨危機の時、IMF(国際通貨基金)の管理下に置かれました。
大矢 韓国では当時たくさんの企業が潰れました。当時の韓国と日本では、外貨準備の厚みが違います。日本は200兆円近い外貨を持っているので、通貨危機は起こらないと思います。
名越 それはよかった。円安についてはどう思われますか。
大矢 個人的には1ドル=160円は明らかに行きすぎだったと思います。IMM(国際通貨先物市場)投機筋のデータを見ると、円売りポジションが歴史的な水準まで膨らんでいて、揺り戻しがどこかであるだろうと思っていました。日本の金融政策は利上げ、アメリカは利下げの方向なので、金利差が縮小する中では、ドルを買って投資する旨みは、だんだん減ってくるはずです。
名越 金利差が大きかったら「円なんか持っていないでドル預金にしよう」とか「アメリカの株を買おう」という気になりますけれど、そういう危険がないのなら、円を持っておく人も多いと思います。最近は円高になりつつありますし。
大矢 データを見ているとわかることも多いです。色々なデータを集めて冷静に分析していく。円安、円高に傾いてるからといって、すぐに追いかけないというのが大事だと思います。
ゲスト:大矢俊雄(おおや・としお)1986年大蔵省入省。コロンビア大学ロースクール留学、IMF審議役、世界銀行理事代理、アジア開発銀行(在マニラ)人事・予算担当局長、財務省大臣官房審議官(国際局担当)、国際協力銀行常務取締役、などを歴任。現在は株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)のエグゼクティブ・エコノミスト、及び株式会社アルムの取締役兼チーフ・グローバル・インベストメント・オフィサーを務める。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書)、「独裁者プーチン」(文春新書)など。