北朝鮮が今までにも増して、韓国に対する敵意を剥き出しにしている。平壌上空にバラまかれた反体制ビラを韓国によるものと断言、さらには南北を繋ぐ道路と鉄道を爆破して国境を完全封鎖、そして140万人もの志願兵が集まったという。まさに一触即発ではないか。北の〝独裁者〟の真意とは‥‥暴発はあるのか?
発端はこの10月、3度にわたって無人機が平壌に侵入したことだ。それを北朝鮮の指導部は韓国軍の仕業と主張して、激しい反応を見せた。金正恩総書記の妹・与正氏は、「再び無人機が発見されたら、必ず恐ろしい惨事が起きるだろう」と、恫喝とも取れる談話を発出している。最悪、第二次朝鮮戦争にも繋がりかねないが、実際、軍事衝突は起こりうるのか。
「結論から言えば、大規模な軍事衝突というのは考えにくい。そもそも平壌に侵入したという無人機も、現時点では誰が飛ばしたのか判明していない。あえて推測すらなら、まず韓国の民間団体、そして可能性は低いですが、中国の民間団体も考えられる。韓国軍が飛ばしたということは、まず考えられない」
そう語るのは、北朝鮮問題に精通するジャーナリストの李策氏だ。ひとくくりに「民間団体」と言っても、すべてが同じ目的で動いているわけではない。脱北者たちが体制転覆のために活動しているケースもあれば、イタズラ目的でドローンを飛ばす集団だって存在するという。ちなみに、李氏が指摘した「中国の民間団体」は後者にあたる。
確かに、金総書記にしてみると、無人機が飛来したとなれば、防空網の脆弱さを露呈したわけで、危機感を募らせるのは当然であろう。だが、まるで戦争前夜のような反応は、あまりに過剰で、別の意図があるようにも思えてくる。それを李氏はズバリ言い当てる。
「主たる目的は北朝鮮国内のさらなる引き締めです。経済制裁で国民は極端に疲弊している上、国内中にバラまかれた韓流ドラマの影響で、国民の間に生活環境への不満が今までになく高まっている。中朝国境など情報が入りやすい地域では、『いっそのこと、アメリカが攻撃してくれないか。そうすれば統一もできる』などという冗談が交わされているほどです」
むろん体制側が、そのような不穏な状況を看過するワケにはいかない。
「今回の事件を利用し、韓国は敵であると再度断言して『統一は絶対にない』と叩き込みたいのです。つまり、統一で生活が楽になるという、かすかな希望を消失させる。そうして国民の心を折った上で、(豊かになりたいなら)自力で頑張るしかないと思い込ませ、だから『自分に従え』と。いわば、金総書記の〝奴隷〟になれと刷り込もうとしているのです」(前出・李氏)
北朝鮮の国民には申し訳ないが、そういうことなら武力衝突という最悪なケースに至ることはなさそうだ。それでも可能性はゼロではない。
「もちろん、核兵器を使うようなことはないでしょうが、もし韓国政府側が(北朝鮮から見て)挑発と取られるような行動を起こせば、延坪島砲撃事件のような、限定的武力行使の可能性は排除できません」(前出・李氏)
ロシアや中東など世界中が火薬庫になりつつある現在、朝鮮半島の火種はせめて燻ったままでいてもらいたい。