大相撲九州場所(11月10日初日)の番付が発表されたが、どの力士よりもことさら視線を注がれているのは、幕下東三十四枚目の須山だった。何を隠そう、この須山、日本の最高学府である東京大学出身なのだ。スポーツ紙記者が言う。
「さいたま市立浦和高校という進学校を卒業しています。文武両道で有名ですが、格闘技に興味はあったものの、相撲を始めたのは大学に入ってから。しかも、東大に入るまでに苦労しており、1浪で臨んだ2度目の入試で文科一類を0.02点差で不合格。慶応大学に進学して、仮面浪人の末に東大に合格したという変わり種です」
東大入学後に相撲部を見学して、楽しそうだと入部を決意。部員全員が初心者で、稽古は週3回。学業と両立可能と謳う東大相撲部だけに、決して強豪とはいえない。
そんな先輩方にも、当時の須山は歯が立たなかったという。なにしろ、現在は115.5キロある体重が、入学当時はたったの72キロ。簡単に勝てないのは自明の理であった。
そこから精進して、須山は実力をつけていく。そして転機を迎えた。
「文学部に進んだのですが、そこで留年してしまったのです。卒業を待っていたら、新弟子検査の年齢制限24歳を過ぎてしまう。そこで在学中に新弟子検査を受けて、木瀬部屋に所属することになったのです」(前出・スポーツ紙記者)
西三段目で迎えた先場所は6勝1敗と大勝し、九州場所で国公立大学出身力士としての最高位へと登り詰めた。
「勉強が相撲の役に立っているとは言えない」
須山本人は過去にネットメディアの取材にそう答えているが、
「野球ならコースや球種など、ある程度はデータを生かせるが、そもそも格闘技は定量的にデータ化することが難しく、数学的な分析や解析はできない」
なにやら偏差値の高さを感じさせるコメントである。まさに文武両道、これほど理路整然と話せる力士は、これまで各界にいないタイプだ。
だが、東大卒のアスリートがスポーツ界で華々しく活躍できたかといえば、そうとは言いきれない。
東大ア式蹴球部出身の久木田紳吾は、卒業後にファジアーノ岡山に入団。東大初のJリーガーとなった。スーパーサブとして活躍したが、ケガで2019年に引退。わずか8年間で、現役生活に幕を下ろした。
1992年にプロ野球ロッテに入団した小林至は、東大野球部の左腕投手として活躍。しかしプロ入り後は1軍での登板経験がないまま、引退している。
「東大卒のアスリートでは、柔道の溝口紀子がバルセロナ五輪で銀メダルを獲得したのが、唯一の成功例でしょね」(前出・スポーツ紙記者)
是非とも須山には頭脳的な取組で勝ち星を重ね、まずは関取を目指してほしい。