11月20日のニュース番組で降って湧いた「八村塁発言」。いったい何のことかと戸惑った視聴者は多いだろう。
コトが起こったのは、アメリカ現地時間11月13日。八村塁が所属するバスケットボールNBAレイカーズと、2022-2023年のBリーグMVP、河村勇輝がツーウェイ契約するグリズリーズが、レイカーズの本拠地ロサンゼルスで対戦。駆けつけた日本のメディアに、八村と河村が笑顔でツーショットの写真撮影に応じるなど、いい雰囲気だったという。
ところが試合後の会見で、日本人記者と八村の間にちょっとした「聞き間違い」が起きた。
プロバスケットボールの最高峰MBAで活躍する八村に対し、日本人記者が投げかけたのは「パリ五輪」「日本代表との思い出」という予定調和的な質問。試合後で神経が高ぶっている八村は、11月21日からのFIBAアジアカップ予選の「日本代表」について意見を求められたと勘違いしたようで、4年後のロス五輪も視野に入れてこう言った。
「僕も日本代表として、NBAでやっている中で、チームの強化というか、子供たちのためとか、日本のバスケを強くするためにやってきている感じが僕はあったんですけれど。日本代表の中でその目的じゃなく、僕が思うには、少し金の目的があるような気がするので」
日本バスケットボール協会(JBA)の「興行ファースト」体質について語り始めたのである。さらに八村は、ヘッドコーチの人選にも言及。
「やっぱりコーチも日本代表にふさわしいコーチ…僕ら日本代表の男子のトップのプレイヤーたちなので。そういう男子のことをわかっている、プロとしてもコーチをやったことがある、そういう人がコーチになってほしかった」
東京五輪女子バスケットボールの銀メダル獲得に貢献し、その後、なしくずし的に男子日本代表を指導しているトム・ホーバス氏がロス五輪まで続投することに、不満をあらわにしたのだった。
この八村からのキラーパスに対し、JBAの対応は遅かった。爆弾発言から1週間の11月20日、アジアカップ予選モンゴル戦(日環アリーナ栃木)を前に現地入りした渡辺信治事務総長が記者団の取材に応じ、
「八村選手の発言を受け、非常に重く受け止めている。日本のバスケを強くしたいという思いでやってきたが、我々の中でミスコミュニケーションがあり、(八村に)負担をかけてしまった」
そう言って謝罪したのである。パリ五輪前の国内での代表戦について、八村は以前からコンディションを優先して出場しないと明言していたにもかかわらず、協会の欠場発表が遅くなり、八村に批判が集中した。
「僕としてはあまり言いたいことではない」
とも述べていた八村に対し、1週間も経ってからミスコミュニケーションを詫びること自体が、ミスコミュニケーションだろう。バスケットボールの世界では野球の大谷翔平以上の功労者である八村への誠意を、あまりに欠いている。
興行面でもJBAはグダグダ。昨夏、盛り上がったバスケットボールW杯は、共同開催したフィリピンが、国を代表する5万5000人収容のフィリピンアリーナを用意したのに、日本の会場はわずか1万人収容の沖縄アリーナで、国内外のファンから「チケットが手に入らない」との不満が出ていた。
NBAを主戦場とする八村の目に、JBAが素人集団と映るのは当然だろう。
(那須優子)