名越 中国については、戦略的互恵関係で進めるというご意見のようですね。
杉山 中国は力で現状を変えようとしています。尖閣などはその典型ですけど、それに対しては毅然とした態度で臨むべきなのは言うまでもありません。ただ、経済面では国際社会が必要としているのも事実。彼らを国際社会に関与させながら「皆と同じルールに従え」と言って、お互いプラスになる部分は得る。これが現実的ではないでしょうか。
名越 習近平体制は強硬です。うまくいきますか。
杉山 11年、バイデン副大統領は中国を訪問して、帰りに1日だけ東京に寄ったことがありました。あの時、バイデンさんは「中国とは1週間でも10日でも話をしなければ理解できないが、日本は1時間でもわかり合える」と言いました。言い訳の部分もあるかもしれませんけど、アメリカでさえ中国とうまくやるのが難しいのは間違いありません。その意味で難易度は高いでしょう。
名越 かつては親中派の政治家が裏で動いて関係を改善していましたが、今年の8月、二階俊博さんが友好議連の政治家を連れて北京を訪問した時、習近平には会えなかった。中国は日本を軽視しているようにも感じます。
杉山 同じ時期にアメリカの大統領補佐官のジェイク・サリバンさんは習主席と会っています。日本軽視と感じるのは仕方ないでしょう。中国に限らず、正規の外交ルート以外のバックチャンネルが弱くなっているのは間違いありません。習主席やプーチンさんのような長期政権に対しては、正規ルートからではなかなか入り込めないので、そこは改善の余地があるでしょうね。
名越 日本外交の中核となるアメリカのリーダーも、トランプという手強い相手に変わります。日本外交に求められることは何か、教えてください。
杉山 若干のリスクを取っても、日本はこう考えているという旗を立てることが必要です。それは役人も考えるけれど、実施する政治家にはリスクを取る覚悟が問われていると思います。特に中国に対しては、曖昧な態度だと逆に関係を悪くすると思います。
名越 25年は、よくも悪くも世界が大きく動く年になりそうですね。それに備えて、日本外交の立ち位置を「常識」として総括する意味は大きい。そのためのテキストに本書は最適です。
杉山 そうなってくれれば、著者としては何よりうれしいです。
ゲスト:杉山晋輔(すぎやま・しんすけ)1953年愛知県名古屋市生まれ。77年早稲田大学法学部中退、80年オックスフォード大学卒業(1992年同大学修士)。77年外務省入省、総合外交政策局国連政策課長、条約局条約課長、アジア大洋州局長、外務審議官( 政務)、外務事務次官、アメリカ合衆国駐箚特命全権大使などを歴任。21年外務省顧問。現在、早稲田大学特命教授。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書)、「独裁者プーチン」(文春新書)など。