医療脱毛サロンを全国展開していた「アリシアクリニック」を運営する医療法人社団「美実会」(埼玉県さいたま市)と一般社団法人「八桜会」(東京都豊島区)が、東京地裁に破産申請していたことがわかった。両法人の負債総額は120億円7000万円。施術代を前払いした患者ら、債権者は9万人を超えるとみられる。
同クリニックの公式サイトはすでに見ることができず、破産管財人の告知文に置き換わっている。その告知文には「未施術分の施術代を返金することは難しい」との説明があった。
昨年12月には美容脱毛サロン大手の「銀座カラー」が破産申請したが、ここで美容脱毛と医療脱毛の違いを整理しておこう。
美容脱毛は医療資格を持たないスタッフが施術するため、火傷や皮膚の炎症を起こさないよう照射力の弱い脱毛器具が使われる。対する医療脱毛は医師が常駐し、看護師が医師の指示のもと、強力な脱毛器具を使う。毛根を焼き切るため、永久脱毛も可能だ。皮膚の深くまでレーザー照射するため、施術時にわきの下や陰部をゴムパッチンされる程度の強い痛みが生じる。
アリシアクリニックに前払いした顧客の中には、この違いがわからず10回分、20回分の、数十万円になる前金を払ってしまった人もいる。
毛根を焼き切る医療脱毛で6回以上の施術が必要な人は、かなりの「剛毛」。アンダーラインの毛が細かったり、薄い人は3回でほとんど生えなくなる。毛が白くなると脱毛施術はできなくなるため、長嶋一茂や谷原章介がワイドショーで、同世代の視聴者に「将来に備えた介護脱毛」を提案しているが、介護脱毛なら男性でも5回施術すれば十分に効果はある。
紫外線が強く、汗をかく4月から9月は、医療脱毛には適さない。医療脱毛こそ、都度払いで十分なのだ。
サロンのラグジュアリーな雰囲気が好きだから数十万円払って通いたい…と本人が納得しているのならいいが、10回も医療脱毛に通わねばならないとすれば、その医療脱毛サロンが患者をつなぎ止めるため、機器の出力を下げていると考えた方がいい。
さらに医療脱毛サロンスタッフの給料は「前金を払う患者」を1カ月で何人獲得したかの「営業成績」で決まる成功報酬制、あるいは歩合制であるケースが多い。特に年末のボーナスが支給されるこの時期、スタッフが医療脱毛のメリットとデメリットを説明せず、前金払いを強引に迫るようなら、別の医療脱毛サロンの利用をお勧めする。その場で前金払いしても、契約書を受け取って8日以内ならば、クーリングオフの制度を活用できる。
美容脱毛は毛根を焼き切る永久脱毛効果は見込めないものの、皮膚の負担や痛みが少なく、料金に医師や看護師への人件費が含まれていないため、安く施術を受けられる。毛が伸びたら施術を繰り返さねばならないため、こちらは回数券や永久会費を払った方がお得。だがサロンが倒産したら返金されないリスクに、変わりはない。
(那須優子/医療ジャーナリスト)