猫は犬のように散歩するだろうか。
散歩する猫を撮影して、Xにアップしている人がいる。その猫はとにかく走る。飼い主はそれにピッタリついて、起用に動画を撮影する。散歩というよりは、ウォーキング以上ランニング未満のようだ。我が家の猫もあんなふうに外を自由に歩いてほしいと思うが、猫はいろいろだ。
3年前に死んだジュテは自由人ならぬ、自由猫だった。我が家にやって来た頃(約13年前)は室内で飼っていた。玄関が開いた隙に外に逃げて、しばらく帰ってこなくなり、探し回ったことがあったが、そのうちひょっこり戻ってきた。
とはいえ、もし戻ってこなかったら…。そう考えて猫用のリードがついたハーネスを買ってきて、散歩に連れ出してみた。ジュテはまるで犬のように草むらを嗅ぎ回って、とても楽しそうだった。Xで見るようなランニング風ではなく、むしろ寄り道が好きだった。
そのジュテが本当に気ままな散歩猫になったのは、マンションの大規模修繕の時だった。修繕の際には外壁に足場を組む。ジュテはベランダから足場にヒョイッと跳び乗って、足場伝いにマンション中を徘徊し、住民から「あ、猫ちゃんがいる」などと驚かれ、かわいがられた。
大規模修繕が終わって足場がなくなってからも外出癖は抜けず、「玄関を開けて!」とギャーギャー騒ぐので、外に出してやると1時間後くらいには「ただいま! ギャーギャー」と大威張りで帰宅するのだった。外出中にしっかりトイレも済ませてくるので、部屋の中でトイレを片付ける必要がなく、手のかからない猫だった。
ジュテのために買った猫用ハーネスは、そのままとってあった。はたして我が家にいる現在の3匹、ガトー、クールボーイ、そうせきは、散歩猫かどうか。
ガトーは玄関やサッシを開けると外への興味は示すが、落ち着かなさそうに戻ってくる。クーは隙あらば脱走しようと思っている猫だから、散歩なんて絶対NGである。となると、ジュテのような可能性があるのは、そうせきに絞られる。
そうせきはガトーと一緒に台所の後ろの窓から、外を通る人や車を興味深そうに眺めていることがあった。ちょうど1歳になった昨年5月頃、ジュテが使ったハーネスをつけて、散歩する猫かどうか、試してみた。
連れ合いのゆっちゃんは、
「ハーネスはスルッと抜けることがあるから、気を付けてよ」
と言う。ジュテは散歩している時、何かの拍子に抜けたことがあったそうだ。ジュテは抜けても逃げる猫ではないから、心配はない。しかしヤンチャ盛りのそうせきは、そうはいかない。何があってもおかしくないのだ。
まずは3階のベランダで試してみることにした。ベランダにはたまに出ることがあったので、気にしないだろうと思ったのだが、ハーネスをつけられた段階で警戒して体を硬くし、不安げにこちらを見る。「大丈夫だよ」と抱き上げ、ベランダに連れ出すと、それだけで腰が引けて体を震わせている。
「どうしたの? ここで遊んでいたじゃないか」
そんなことを猫に言っても仕方がないが、普段はあんなにヤンチャなのに…と思ってしまう。それでも床に座らせると、恐る恐る前進しようとする。ジュテと同じように植木の匂いを嗅いだりしているのだが、気が付いたのは、耳が動いていることだ。
自宅は幹線道路から一本入った場所にある。車の音は騒音というほどではないが、常時、聞こえている。どうやらその音が怖いらしく、不安そうにこちらをチラ見するのだ。
「やっぱり坊っちゃん(そうせき)はジュテみたいな散歩猫じゃなさそう」
「あんなにいろんなことに興味があるのにね」
別の日に、今度はハーネスをつけて玄関の外に出してみた。車の音は3階よりも大きく聞こえる。そうせきはやはりこちらを見ながら「ミャ―、ミャ―」と心細げに鳴いている。
「そうか、そうか、ごめんね」
抱き上げて家の中に入れてからハーネスを外してあげると、アッという間に2階に駆け上がって消えてしまった。
(峯田淳/コラムニスト)