気温が下がる冬季の入浴中に発生する死亡事故の大半は「ヒートショック」によるものだと考えられてきた。
12月6日、中山美穂が遺体で発見された一件も「自宅での入浴中に起きた不慮の事故」とされ、当初は多くの医療専門家が、ヒートショックの可能性を指摘していた。その後、警察による解剖の結果、心筋梗塞や脳卒中といったヒートショックによる「病死」ではなく、「溺死」とみられることがわかった。
ヒートショックについていえば、冬場の脱衣所で衣服を脱ぐと、室内の寒さで血圧が急上昇する。その状態でいきなり湯船に身を浸せば、今度は湯の熱さで血圧が急降下する。ヒートショックは、このような血圧の急変化によって引き起こされる心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な健康被害であり、そのまま死に至るケースは少なくない。
ところが近年、千葉科学大学の黒木尚長教授(法医学、救急救命学)らが実施した調査によって、入浴中に浴槽で体調急変に見舞われた高齢者のうち、ヒートショックによるものと考えられるケースは1割にも満たないことが明らかになった。では、入浴中の体調急変の主たる原因は、いったい何だったのか。
黒木教授らの報告によれば、65歳以上の高齢男女3000人のうち、入浴中に体調が悪化した人の割合は全体の10.8%。このうち熱中症が原因と考えられるケースは62.2%で、熱中症が疑われるケースは22.0%に上った。つまり体調悪化の原因の8割以上は熱中症関連であることが、科学的データとともに示されたのである。ちなみにヒートショックが疑われるケースは、入浴前後を合わせても、7.1%にすぎなかった。
体温37度の人が湯船で全身浴をした場合、湯温が41度だと33分、42度だと22分で体温は40度に達し、意識障害などの熱中症の症状が出始めるという。高齢者は神経の老化によって熱さを感じにくいため、突然死をもたらすレベル(体温42.5度超)まで入浴し続けてしまうケースもあるというのだ。
こうなると高齢者に限らず、冬場の入浴で注意すべきは、ヒートショックというよりもむしろ、熱中症ということになる。
いずれにせよ、命を落とさないための対策を怠ってはならないということだ。
(石森巌)