国家の主権を脅かす「領空侵犯」。例えば2024年には中国軍のY-9情報収集機が長崎県の男女群島沖の領海上空を侵犯し、日本が厳重抗議した事案がある。
ここにそんな領空侵犯機を攻撃した例がある。2023年2月11日、カナダのトルドー首相は、カナダ領空に入ってきた「未確認飛行物体」の撃墜をSNSで発表した。
この日、アメリカとカナダが共同運営する北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)が、カナダ北西部ユーコン準州上空を飛行する正体不明の物体を発見。米軍のステルス戦闘機F22がこの物体を撃墜し、カナダ軍が残骸を回収、分析しているというのだ。航空ジャーナリストが語る。
「実はこの数日前にもアラスカ州上空で、未確認飛行物体が米軍機により撃墜される事案が発生しています。今回の物体は、上空1万2000メートル付近を飛行。民間航空機の運航に危険が及ぶとの判断から、米国と連携の上で、カナダ領域での処置に至ったようです」
この件はNORADによる通報だったが、カナダ国内には同司令部の傘下で、北アメリカに接近する航空交通を監視する「カナダ航空防衛部 (CADS)」がある。ここにはカナダ国内における未確認飛行物体についての情報が寄せられ、文書化されているという。
「事例の中には、2016年4月15日夜にトロント付近の航空便から航空防衛部に報告が上がった『明るい光が頭上を通過した』との記録や、同年12月18日のアルバータ州西部での、白昼におけるUFO出現事件があります。さらに2018年11月7日の、シンシナティ発カルガリー行きの便が目撃したとされる『明るい光』事件など、数々の情報がデータベース化されています。ただ、大半が詳細不明であり、レーダーの不具合等として処理させている。今回は具体的な迎撃があり、その部品が回収、分析されるとあって、カナダ国民の関心は高まりました」(前出・航空ジャーナリスト)
ところが待てど暮らせど、政府から分析結果が発表されることはなく、この件が報道されることもなくなった。そしてしだいに人々の記憶から消えていくことに。
ここで事態は急展開を迎える。すっかり忘れかけていた18カ月後の今年8月、カナダ国防省が一般人からの情報開示請求を受け、その際に撮影されたという画像を公開した。そこに写っていたのは、馬の蹄に装着する蹄鉄に似た形の物体だった。
「当初は大統領がSNSで公表し、撃墜発表から数日で一般公開される、としていたものが、なぜ18カ月も経って、しかも情報開示請求がなされて初めて出てきたのか。カナダ軍が回収、分析した物体の残骸には公開できない事実が含まれており、政府として『あの事件』が人々の記憶から消え去るのを待っていたのでは、との憶測があるようです」(前出・航空ジャーナリスト)
実は墜落したUFOの残骸は山岳地帯にあり、しかも厳しい冬の到来もあって、一時中止していた、との情報がある。もちろん国防上の理由で公表できないという場合もあるのだろうが、カナダでは「空白の18カ月」の謎が広がり続けているのである。
(ジョン・ドゥ)