近年、日本でも盛り上がりを見せている自転車競技に、水を刺す大事件が勃発した。2月16日に東京明治神宮外苑で開催された「第1回東京クリテリウム」での「大暴言」だ。レーススタート直前に、次のような声が飛んだのである。
「前の方の列に見たことないヤツ、いっぱい並んでるけど大丈夫か、お前ら。コケんなよ、わかってんな、以上。窪木、窪木選手、いちばん前に出てこい。お前ら、開けたれ。窪木先生、前に出てこい。雑魚ども、道を開けろ!」
発言の主は大阪府出身のプロ自転車競技指導者で、一般社団法人全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)の安原昌弘理事長だ。今大会にも出場している実業団チーム「マトリックス・パワータグ」の監督でもある。スタート時に後ろに埋もれていた元チーム所属選手でスクラッチ世界チャンピオンの窪木一茂を、右端から前に出させたのだった。
この発言は瞬く間にSNSで拡散。あまりにひどい暴言が袋叩きとなるまでに、時間はかからなかった。「こんなことを言う人物が理事長とはどういうことか」「これで自転車競技を始めようと思う人はいないだろう」と思うのは当然のことだ。
もともと競技自転車業界では、安原氏のよく言えば豪快な、悪く言えば乱暴な発言には賛否があった。2020年9月のツール・ド・フランス第19ステージのゲストに呼ばれた際には、司会者に対してなぜか上から目線で「君らに期待しているわ。しっかりやりたまえ」と発言。本人は関西人特有のボケをかましているつもりのようだが、視聴者からは「酔っ払いなのか」「ゲストの喋り方が不快すぎる」と、仕方なく英語実況に変える人がいたくらいだ。
今回の大批判を受けてJBCFは公式サイトで、安原氏の発言を謝罪。
〈一般社団法人全日本実業団自転車競技連盟では、本件を受け、厳正な対応を進めて参ります。また今後一層のコンプライアンスの遵守を徹底し、全ての関係者の皆様に対し、今後このようなことの無いことをお約束します。改めて、この度は大変申し訳ありませんでした〉
とはいうものの、肝心の暴言理事長による直接の謝罪はなかった。。
自転車ロードレースの本場は欧州で、100年以上続く、伝統ある競技だ。まだまだ馴染みの薄い日本では、安原氏の発言が社会問題にまではなっていないが、これがイタリアやフランスだったら、大暴動が起きていてもおかしくはないのだ。
(ケン高田)