北朝鮮に拉致された有本恵子さんの父・明弘さんが死去したことを受けて、石破茂首相は2月17日の衆院予算委員会で「本当に残念だ。一日も早い拉致被害者の帰国を、あらゆる手段を使って実現させていく」と述べた。ただ、石破首相と、拉致被害者の家族で構成する家族会との間では、溝が深まっている。
両者の見解の相違は、2月16日の家族会と支援組織「救う会」の合同会議で浮き彫りになった。石破首相は平壌に連絡事務所を設置するのが持論だが、家族会代表の横田拓也氏(横田めぐみさんの弟)は石破首相の国会答弁を問題視した。
石破首相は1月31日の衆院予算委員会で、次のように述べている。
「交渉するにあたり、連絡事務所があることはそれなりに有効だと思っている。しかしながら、北朝鮮の術中にはまるという反対意見があることも、よく承知している。今、どういうような課題について、例えば北朝鮮の労働者の遺骨の問題がある。(中略)常に迂遠な道ではなくて連絡事務所を置くことによって、より我が国の有権者の前に明らかになるというメリットもあると思います」
石破首相らしい回りくどい言い方だが、連絡事務所設置の意味はあると主張しているのだ。首相が言及した「朝鮮の労働者の遺骨」とは、東京・祐天寺の納骨堂に朝鮮人軍人・軍属の遺骨700体が「仮安置」されていることを指すとみられる。
この石破発言について横田氏は、
「私たちが何度も反対の意思を示している連絡事務所の設置に、前向きな見解を述べている。極めて残念な姿勢で、私たちの立場として改めて、この考え方は間違っていると、この場でも申し上げておく」
石破首相が家族会の反対を押し切ってでも、連絡事務所を設置するのか。石破首相に求められているのは連絡事務所の設置に力を入れることではなく、拉致被害者の早期帰還の実現であることは言うまでもない。
(奈良原徹/政治ジャーナリスト)