ここ数年は飲食店における禁煙・分煙が当たり前になった。だが、ほんの7年ほど前にはまだ「タバコを吸って何が悪い!」と主張する喫煙者は少なからずいた。とはいえ、喫煙者で現職の国会議員が、なんとガン患者に向かって罵声を浴びせようとは…。
コトの起こりは2018年6月15日の衆院厚労委員会。受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案の審議中、参考人である日本肺がん患者連絡会理事長の長谷川一男氏(当時、ガンのステージ4だった)が、屋外の喫煙場所の在り方について意見を述べると、会場内から「いいかげんにしろ!」というヤジが飛んだのである。
当初はそれが誰の言葉なのか、わからなかった。しかし、周囲にいた議員らの証言により、そのヤジ発信者が穴見陽一衆院議員であったことが判明する。野党をはじめ、関係団体からの猛抗議を受けた穴見氏は6月21日午後、発言したことを認め「不快な思いを与えたとすれば、心からの反省とともに深くおわびする」と謝罪。「参考人の発言を妨害する意図は全くない。喫煙者を必要以上に差別すべきではない、という思いでつぶやいた」とするコメントを発表したのである。
とはいえ、当時すでに受動喫煙による健康被害は、科学的にも証明されていた。日本肺がん患者連絡会などが肺ガン患者215人に対して行ったアンケートでは、患者の87.7%が飲食店で、14.6%が職場で、そして6.1%は家庭で、受動喫煙を経験したことが明らかにされた。そこを微塵も理解しようとせず、あたかも参考人が喫煙者を差別したかのように表現するとは…。
さらに驚いたのは、田村憲久元厚労大臣による、こんな擁護発言だ。
「そもそもヤジなのか。委員長は静粛に、と求めておらず、審議の妨害になっていない」
このどうにもならない認識のズレに、ガン患者とその家族の怒りが大爆発したのは言うまでもない。
1カ月後の参院厚生労働委員会では、かつて自ら子宮頸ガンを患い、受動喫煙対策を推し進めてきた自民党の三原じゅん子議員が、穴見氏に代わって長谷川氏に謝罪した。
「受動喫煙で肺ガンを患い、現在ステージ4にありながら受動喫煙対策に力を尽くしておられる長谷川参考人は、『救える命は救ってほしい。そう願います』とおっしゃっています。その切実な思いを、私たちは本気で受け止めてきたのかどうか。今一度、深く反省しなければいけないと思います」
だが、時すでに遅し。不適切発言を通り越した常識外の大暴言が、自民党の不名誉な歴史に刻まれることになった。
(山川敦司)