この「河合悠祐」という名前を聞いて、「アッ!」と記憶が甦る人がいるのではないか。2024年の東京都知事選にジョーカーの姿で登場し、さらにはほぼスッポンポンの選挙ポスターを掲示板に貼って世間から猛バッシングを浴びた、あの人物だ。掲げる公約は「一夫多妻制を認めよ」「大麻の合法化とともに渋谷区をシャブ谷区に」など、ユニーク極まるもの。要するに、世間を騒がせて楽しむ「愉快犯」なのではないか、と言われてきた。
だが、ほぼ当選不可能と思える千葉県知事選や衆議院選に挑むだけでなく、埼玉県草加市議選で当選しているし、2025年1月の埼玉県戸田市議選では最多得票で当選。立派に市議としての活動を行っているのだ。
話し出すと湧き出るように次々と言葉が口をつき、京都大学出身だけあって、内容は理路整然としている。
「都知事選ではいろいろ公約を挙げてしまいましたが、戸田市議選ではワンイシュー『外国人の生活保護廃止』。この訴えで戦いました」
もともと埼玉県南部での不法移民問題については、やがては国を滅ぼすもとになる、との強い危機感を抱いていたらしい。そこで都知事選で落選した後、最も不法移民が多い埼玉県川口市や蕨市での市議選立候補を考えたが、残念ながら2027年まで選挙がない。そこで、すぐに選挙が行われる近隣の戸田市で立候補することに決めた。
「生活保護の廃止については、市議レベルでも扱える問題なんですね。できれば不法移民の強制送還については市から要望書を出して、国も動いてもらいたい」
そんな彼でも経済面を考えて、一定数の外国人が入ってくるのはやむをえないと認めている。
「でも今の流れは、なし崩し的に外国人を入れて、生活保護だけでなく、参政権まで認めようとしていますよね。これはおかしい。もし住民の過半数が外国人になったら、これが日本と言えますか」
外国人の人権を擁護する「人権派」の団体とは、しょっちゅうモメており、「河合はヘイトの急先鋒」として演説を妨害されたり、大勢の人で壁を作られ、目的地に行かせてもらえなかったり。そんなことが、しばしばある。ただとにかく、明確な活動目的が存在しているのだ。
その経歴を見ると、だいぶ変わっている。大学院まで出た後にいったんはIT企業に就職し、独立して人材派遣会社の経営者となるかたわら、お笑いタレントの養成スクールに入り、芸人としての活動を行った。
「カネが溜まったし、やりたいことをやってみようと、まず芸人をやってみたんです。それが政治家につながった。最初に出た千葉県知事選でも、ジョーカーになってゼロイチの認知を作れたのも、お笑い芸人としての基礎が役に立ったのは確かです」
最重要テーマは外国人問題ながら、市議会では市民と密着した、それ以外の案件ももちろん手掛けている。
「まずは市のカネの使い方のチェック。そこが市議としての最も大切な仕事と言えますね」
ボートレース場があり、東京のベッドタウンとして機能する戸田市は、財政的には相当に裕福だ。しかも子育て世代の若い夫婦が多い。そのくせ小学校の給食費無償化、保育所の無償化はなかなか進まない。東京23区に比べて、いささか行政サービスは遅れている。そこを改善できるように手を尽くしたい、と彼は語るのだ。
ゴミ処理問題も喫緊の課題だ。隣の川口市でゴミ処理施設が火事になり、今は戸田市と蕨市の施設で処理しているのだが、それで予算がどれほど増えたか、今後どうしていったらいいか、などを戸田と蕨の市議の連合チームで討議しているとか。単なる腰掛けではなく、それなりに市議として働いているのだ。
一応、本人は「日本保守党」を名乗り、その後、別の政治団体が「日本保守党」として衆院議員まで誕生させているが、
「今のところ、名前を変えるつもりはありません。ただ、比例代表でこちらが保守党を名乗れなくなっているので、選挙になったら違う名前にするかも。考え中です」
いずれは国会での活動を視野に入れている。トランプが大統領に返り咲き、ヨーロッパでは極右政党の支持が伸びている今、「日本人ファースト」を掲げる彼の政策は案外、広く受け入れられていくかもしれない。
(山中伊知郎/コラムニスト)