東欧ルーマニアのヴァルシア郡には「生きている石」と呼ばれるトロヴァントという石が点在している。トロヴァントはその昔から、恐竜の卵か植物の化石、はたまた宇宙から来た生命体などと噂されてきたが、地質学者らにより、約530万年前の中期中新世の地殻変動によって形成されたものと推測された。博物学者マゴチ氏が著作物で「生きている石」と名付けたことから、広くそう呼ばれるようになったようだ。
大小、数多くのトロヴァントが点在するのは、ヴァルシア郡コステスティ村の近くの砂採取場、あるいはそこから15キロほど離れたオテサニ村近くを流れるグレサリア・ブルーク川沿いなど。コステスティ村の自然保護区にある「トロヴァント博物館」にも展示されている。
とはいえ、トロヴァントはなぜ「生きた石」と呼ばれているのか。実はこの石、雨が降ると大きさが増すという特徴があるからなのだ。
トロヴァントは石灰岩や炭酸カルシウム、セメントによって結合された砂粒、または砂岩の堆積によって形成されている。そのため雨が降ると、雨中に含まれるミネラルを吸収して石の中に存在する化学物質と結合し、中心部から外側へ向けた圧力が生じて、石が膨張する。そんな不思議な姿が地元で暮らす人々の目には、古くから「成長して移動し、子供が生まれ、それが独立し、さらに成長する」と映り、様々な伝承が語り継がれてきたのである。
トロヴァントは直径数ミリのものから、最大で約4.5メートル、重さにすれば数トンあるだろう巨大なものまで多種多様。1カ月間にわたって観察した結果、2.5ミリ動いた、といった、研究者による報告もあるようだが、
「確かに土壌の加熱や冷却によって石が動く可能性は否定できませんが、わずか1カ月で2.5ミリも動いたとの報告は、科学界では懐疑的な見方が強かった。というのも、雨によりミネラルと石に含まれる化学成分とが反応したとしても、成長速度は約1000年で4センチから5センチ程度と非常にゆっくりだといわれています。ただ、固まる成分が不規則に分泌することが分かっているため、なんらかの要因でそれが非常に早まった場合、短期間で成長することも考えられますが…。はたして1カ月で2.5ミリ動くというのはどうなのか…」(サイエンスライター)
地元では現在もこの石の移動目撃談があとを絶たないが、トロヴァントが植物と岩石の特徴を兼ね併せているため、生物とみなすか無生物とみなすかは今もなお、意見が割れるところだという。なんとも神秘的ではないか。
(ジョン・ドゥ)