トランプ氏の大放言の中には心底、世界中を震え上がらせるようなものも多い。その最たるものが、施政方針演説で改めて示された【グリーンランドはいずれにしても、手に入れると確信している】という挑発的な言葉だろう。
現状、グリーンランドは独立問題をはらんでいるにせよ、れっきとしたデンマーク領である。それを手に入れるという発言は、他国の領土をアメリカの都合のいいように組み入れる、ということに他ならない。驚くなと言うほうが無理だろう。
ただし、実現するかどうかとなるとまた別問題だ。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏はこう突き放す。
「率直に言って、グリーンランドがアメリカの領土となる可能性は0%に近いと思っています。そもそもトランプ大統領の発言には、これといった具体性、つまりどういう手はずでどのように話が進んでいるのか、というものが全くない」
実質的な動きはないというグリーンランド「併合案」だが、それ以上に人々を驚愕させたのは、【カナダを51番目の州にする】というものだろう。この発言は当初、カナダのトルドー首相(53)との会談で出た発言で、世間的にはジョークとして捉えられた。しかし、その直後、トルドー首相がトランプ大統領はなかば本気のようだと周囲に話し始めたこと。また、トランプ大統領自身もことあるごとに同様な発言をすることで、がぜん現実味を帯びることになったのだ。
現在、関税問題であわや貿易戦争寸前という状態のアメリカ・カナダ両国だが、その中でトルドー首相がアメリカへの報復関税を発表すると、【(報復関税を課せば)同率の相互関税が発動されると、トルドー・カナダ州知事に説明してくれ】とトランプ大統領は煽りまくっているのである。
何がなんでも〝アメリカファースト〟なのだ。こうした権益に関してはグリーンランド同様にたびたび口にしているパナマ運河もそうだ。施政方針演説の中で【アメリカへの奪還の取り組みを始めている】と言明。こちらも同様に、具体性があるものではなく、またパナマ政府もそれを否定しているのが現状なのだ。
その多くは、実現性に乏しく、世界を攪乱するような放言をし続けるトランプ氏だが、いったいその真意はどこにあるのだろうか。
「根拠のない真偽不明の情報に関しては、トランプ大統領とその周囲にフェイクニュースを信じる‥‥例えば親トランプの保守系メディア『ブライトバート』や『ワン・アメリカ』などに影響されていることもあるでしょう。それとは別に懸念しなければいけないのは、ロシアによるデジタル影響工作です。巧妙なロシアに有利なフェイクが入り込んでいる可能性が高い」(黒井氏)
さらにこの一連のトランプ氏の物言いには、我が日本も他人事とばかり言っていられないのだ。3月6日、トランプ大統領は、【我々は日本を守らなければいけないのに、日本は我々を守る必要がない】と強い不満を露わにしたのである。実は1期目にも同様の発言があったのだが、この時は当時の安倍政権が安保法制を持ち出し、ある程度納得させたことで事なきを得ている。黒井氏が日本にとっても対岸の火事ではないと警鐘を鳴らす。
「カナダやメキシコのような近隣の友好国にあれだけ言うということは、日本にも当然要求が多くなるでしょう。これをいかにうまく石破政権が乗り切るか。それに尽きるでしょうね」
「キング」どころか「恐怖の大魔王」と化したトランプ大統領。この4年間は世界にとって正念場だ。