10万円の商品券配布問題で四面楚歌の石破茂総理だが、かつて野に下っていた政調会長時代、「一日も早く職を辞すことが国家のためだ」とバッサリ斬り捨てたのが、菅直人第1次改造内閣で法務相兼拉致問題担当相の職にあった柳田稔氏である。
柳田氏は2010年9月発足の菅内閣で初入閣。就任直後の記者会見では、拉致議連に参加するなどの目立った活動がなかったことで、拉致被害者家族会からは「面識がない、拉致問題について見識はあるのか」といった疑いの声が上がった。
そして就任後には、検事による証拠改ざんや尖閣諸島沖の漁船衝突事件など、法務・検察が矢面の立たされる懸案が続出。ところがこの柳田氏、10月の衆院法務委では自民党の平沢勝栄氏から「(尖閣事件の)ビデオは見たか」と尋ねられて、
「何のビデオでしょうか」
関係者を唖然呆然とさせたのである。
あるいは閣僚の資産公開については記者会見で、
「やましいことをしたことがないので、公開する必要がないんじゃないか」
と述べて、党内外から大ヒンシュクを買うことに。そして次に放ったのが、2010年11月14日、広島市での国政報告会でのこんなひと言だった。
「皆さんも、なんで柳田さんが法相かと理解に苦しんでいるんじゃないかと思うが、いちばん理解できなかったのは私です。私はこの20年近い間、実は法務関係は一回も触れたことはない」
「法務大臣はいいですね。2つ覚えときゃいいんですから。『個別の事案についてはお答えを差し控えます』と、これがいいんです。わからなかったらこれを言う。で、あとは『法と証拠に基づいて適切にやっております』。この2つなんです。まあ、何回使ったことか」
これは大阪地検特捜部主任検事の証拠改ざん事件を受けて飛び出したものだが、大いに問題視した自民党の河井克行氏は衆議院法務委員会で「法相という職を汚している発言」として、謝罪と撤回を要求。柳田氏はなんと答えたか。
「ご迷惑、誤解を与えた。少々ちゃかしたかもしれないが、間違ったこととは思っていない。委員会の審議では真摯な答弁を心掛けたい」
もちろ、野党の猛攻撃は激しさを増し、就任からわずか2カ月後の11月22日、辞職に追い込まれることになった。そしてこの発言こそが、菅内閣の支持率低下をエスカレートさせる起爆剤となったのである。
(山川敦司)