これまでいったい何十人の政治家が暴言によって更迭、あるいは辞任させられてきたことか。それでも永田町という世界にはまだ「自分だけは大丈夫」という、我々庶民には計り知れない感覚を持った人が多いようである。
国会で与野党による激しい論戦が繰り広げられる中、身内議員から相手議員に対し、辛辣なやヤジが飛ぶことはままあること。だがいくらなんでも、このタイミングでそれを言っちゃアウトだろ、というシーンがあった。2018年1月25日、当時の内閣府副大臣・松本文明氏がブチかましたひと言である。
衆院本会議で代表質問に立った共産党の志位和夫委員長が、沖縄県内で米軍ヘリのトラブルが続発していることに言及。辺野古新基地建設の中止を求める中、議員席から「それで何人死んだんだ!」というヤジが飛ぶ。暴言の主は松本氏だった。
松本氏は衆院当選4回で、衆院比例東京ブロック選出。2015年の内閣改造で副大臣として沖縄・北方担当を務め、2017年8月に内閣府副大臣に再任された。この年の2月4日には沖縄県名護市長選が予定されており、まさにその直前というタイミングでの暴言に、安倍晋三総理も驚愕するしかなかった。
官邸に松本氏を呼びつけると、翌日には早々に辞表を提出させ、受理するという異例の対応で火消しに走るハメになったのである。
辞表受理後、ブラ下がりに応じた松本氏は、とってつけたような釈明を繰り出した。
「訓練などで県民や米軍関係者の多くの人命が失われている。それに報いるという思いで言った。不規則発言で誤解を招いた。不徳の致すところとしか言いようがない。沖縄県民、国民の皆さんに迷惑をかけた」
安倍総理からは「この国が大変な時期なので、緊張感を持って対応してもらわないと困る」と注意されたとして、普天間飛行場の名護市辺野古移設を推進する必要性を改めて訴えた。ただ、松本氏のオラオラぶりはよく知られる話で、政治部記者によれば、
「2016年4月の熊本地震の際には、松本氏が政府現地対策本部長を務めたのですが、地元の自治体職員に対して『支援物資は十分に持ってきているのに、被災者に行き届かないのは、あんたらの責任だ。政府に文句は言うな』と怒鳴りつけるわ、現地で配られたおにぎりに『こんな食事じゃ戦はできないだろ』と文句はつけるわ。結局、対策本部長から降ろされたことは、政治部記者なら誰もがよく知る話です」
ヤジ翌日の朝日新聞デジタル版には「この1カ月半、たまたま死人が出ていないだけ。死人が出なければ政府は動かないのか」という、屋根に米軍ヘリの部品が見つかった宜野湾市内の保育園園長の談話が掲載されていた。松本氏の不適切発言により、自民党と沖縄県民との間の溝はさらに深まることになってしまったのである。
(山川敦司)