不食の“入り口”に注意が必要なように、“出口”にもまた留意点がある。
「注意しなければならないのは、食事量を減らしたあとに戻していく回復食のほうなんです。無理な我慢から解放された気持ちで、いきなり普通に3食などすると、体に腫れやむくみが現れたり、具体的には胃腸の痛みや腸閉塞、アレルギー性疾患が現れることがあるのです。軽いものから徐々に普通の食事に戻すという回復食の管理ができない人は少食をする資格はないと言えます」(森氏)
榎木は不食明けの最初の食事でフレンチを食べたことが伝えられた。渡辺氏も森氏も「あれは危険」と口をそろえる。
「昔、飢饉が起こった時の救援の炊き出しで、かえって死者が出たという事実があります」(前出・渡辺氏)
ここまでくれば、食べないことの生死を分ける境界線が見えてきた。不食や断食、少食にしても、まずは医師や専門家の指導のもと、個人差に合わせた方法が不可欠。榎木のような30日間の絶食ではなく、徐々に減らし、徐々に戻すのが絶対的ということになる。
あとは、不食の科学的な論拠があれば、なお安心なのだが‥‥。栄養学に詳しい医師はこう話すのだ。
「人間の体は水分が大部分を占めるといいますが、水だけ飲んでいても、一般的に約40日で死ぬとされています。不足する糖質を補うために脂肪が分解され、脂肪がなくなったら、今度はタンパク質が分解されていく。さらにエネルギーが足りないとなれば、臓器の機能も低下して、人命につながる危険な状態に陥ります。人間は何もしないでいても、1日に1200~1500キロカロリーが基礎代謝として消費されているわけですから、医学的な常識から考えれば、基礎代謝を下回るカロリー摂取で長年健康というのはちょっと説明がつきません」
何も森氏や山田氏がデタラメを言っているわけではない。山田氏は自著で「不食についての議論はしない」と記し、不食は知識では解決できないもので体験であることを強調している。科学的に不食は未解明なのである。
論より証拠──。この言葉に従えば、不食の実践者の存在こそが、科学では解明しきれない、健康に関わる不思議を明示しているとも言えるのだ。