また、取り組み方の特徴について、金氏はこう言う。
「藤原君には、『これに生活がかかっている』、川内君には『限られた環境の中で最善を尽くそう』というハングリーさがそれぞれあります。実際の練習距離は、実業団選手が月に平均1200キロを走るのに対し、藤原君は700キロ、川内君が500~600キロ。2人に共通しているのは、やはり量より質にこだわっているところですね」
例えば、ダイエットで話題のカーヴィーダンスなど、藤原はいい練習法があると聞けば自分で調べて取り入れているというが、これは実業団選手には難しいと前出の専門誌ライターは話すのだ。
「実業団には、よくも悪くも質より量で結果を出してきたノウハウがある。2人のように練習を一から組み立てるには難しい環境にあります。さらに、学生時代から結果至上主義の指導者によって、体作りよりも記録を出す指導を受けてきた学生が多く、そういう選手は伸びしろが少なく、体も強くないため、すぐに故障してしまう」
だが歴史を見ても、実業団駅伝のエースはマラソンのエース。やはり選手の意識が希薄だと折山氏は指摘する。
「昔は外国人選手との身体能力の差を考えると『陸上競技で日本人選手が勝てるのはマラソンしかない』と言われてきた。だから、かつて実業団の長距離選手たちは、マラソンで世界の頂点に挑みました。ところが現在の実業団には、マラソンに挑戦すらしない選手が増えているのです」
この背景について説明するのは、前出・専門誌ライターである。
「実業団の中には箱根駅伝で注目されて満足してしまったり、燃え尽きてしまった選手が多いのも事実。『駅伝さえやっていれば食いっぱぐれることはない』と言う選手もいる。ぬるま湯につかり、駅伝、マラソンともに中途半端な練習になって結果も出ないという負のスパイラルに陥っています」
親会社の利益主義、指導者の保身意識に加え、選手自身もこの体たらく。日本マラソン界の「病巣」は、ここにあったのか──。
折山氏は、覚悟ができるかどうかが問題だと話す。
「藤原は実業団に入った時から『マラソンで勝負したいんです。駅伝は仕事です』と腹をくくっていました。だから『マラソンしか自分の道はない』と、実業団を出て専念できる環境に身を置いた。強い目標があるから、気持ちが違います。実業団には潜在的な力を持った選手が数多くいるわけで、プレッシャーに負けず、人生もマラソンも自分で切り開く、という気概で挑めば記録は出るはずです」
藤原と川内が開けた風穴が、低迷著しい日本マラソン界の意識を変えてくれることを願う。
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