こうした悪用行為に対し、政府も罰則を定め、対策に乗り出している。では何が罪に問われるのか。番号が記載されている個人番号カード裏面のコピーは禁止されているなど、思わぬところでの落とし穴が待っている。牧之内総合法律事務所・水永誠二弁護士の説明を聞こう。
「新たに施行される番号法第20条から判断するに、例えば、拾ったカードの番号を覚える、あるいは記録することは同条違反に問われます。他人のカードの裏面を見た程度では罰せられませんが、番号を故意に記載、記憶した場合は、本来、所有者しかできないことを行ったと見なされてしまう。同様に、拾った財布に入っていたカードの番号も記録してはいけません。警察に届け出る前提でも違反となる可能性があります。3年以下の懲役、または150万円以下の罰金が科されるおそれがありますね」
ここまで「損」ばかりが目立ち、「得」が見えにくいマイナンバー。経済アナリスト・森永卓郎氏は、さらなる「損」を指摘するのだ。
「今後、社会保障のデータと税務署のデータの内容精査が行われるようになります。すると厚生年金の未加入事業所が全て表に出てくる。現在、源泉徴収をしている企業は250万社あると言われますが、厚生年金に加入している企業は170万社にすぎない。80万社が加入を逃れているのでは、と疑われています」
現在、常勤の従業員を1人でも雇用している場合、企業は厚生年金加入の義務が発生する。厚生年金は企業側と労働者が同額負担して賄っているものだ。森永氏が畳みかける。
「厚労省は、この加入逃れを黙認しないと言っています。つまり、未加入の企業と労働者にいきなり厚生年金の支払い義務が生じるんです。そうなると、中小・零細企業では払えないところが出てくる。支払いを逃れるためには従業員のクビを切り、フリーランスとして雇用するしかなくなります。日本中で、とんでもない数のリストラが起きる可能性が生じるわけです」
個人レベルでは、年金の未払いも確実に捕捉され、払わない場合は財産などの差し押さえも行われるという。そして森永氏は次のように断言するのだ。
「マイナンバーに国民のメリットなんか何もありません。書かない、見せない、持ち歩かない。これがいちばんいい。しばらくしたらいろいろな問題が出るので、それまで個人番号カードの申請も含め、よけいなことはしないのが正しい方法です」
これが「損か得か」の結論と言えようが、一般庶民と同様に、さるヤクザ幹部もこう言って嘆くことしきりなのだ。
「税務情報を把握される以上、(シノギを稼ぐ)店の収益など、正当な収入分の税金は払うよ。本当にやめてほしいけどな。下っ端の連中は無職が多くて関係はないだろうが、俺は立場上、パクられるわけにはいかない。払うもんは払うしかないということだけ。自民党政権は退陣してほしいよ」
利するのは国と役所のみのようである。